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群馬大学




前橋工科大学 建設工学科 講師 田中 恒夫


 
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1. はじめに
2. 生物・電気化学ハイブリッド法の原理
3. 実験装置
4. 実験方法
5. 結果および考察 
6. まとめ
 


5.結果および考察

 実験の結果を図−2に示す。


図2 実験結果

 流出入のNH4−N、NO2−N、NO3−N、TNおよびCODの濃度の経時変化を示した。流入のNH4−N、NO3−N、TNおよびCODの濃度は、実際の活性汚泥プロセスからの流出水の各物質濃度を参考に、それぞれ30〜35mg/L、55〜60mg/L、120〜130mg/Lおよび30〜35mg/Lとした。供給原水は、生物処理された排水(2次処理水)の水質をもとに調整したため、有機物濃度と窒素濃度の比は流入水とは異なりアンバランスで、脱窒処理し難い排水である。

 無通電条件のRun1において、流出のNH4−N、NO3−N、TNおよびCODの濃度は、それぞれ30〜40mg/L、45〜55mg/L、105〜115mg/Lおよび5〜10mg/Lの範囲であった。NH4−N濃度は、実験装置を通過することにより若干上昇した。これは、有機性窒素濃度(TN濃度からNH4−N、NO2−NおよびNO3−Nの濃度を差し引いた濃度)が減少していることから、充填ろ材や生物活性炭に付着している好気性あるいは嫌気性の微生物の働きにより、有機物の分解(脱アミノ化)が促進されたこと等の影響と考えられる。NH4−N濃度の変化とは逆に、NO3−N濃度は減少した。48時間の滞留時間で、NO3−N濃度は10mg−N/L程度低下した。TN濃度は、NO3−N濃度と同様に、流出入の濃度差は約10mg−N/L程度であった。流入水の有機物:窒素の比は低かったものの、脱窒反応は確認できた。電子供与体の外部からの添加により、脱窒速度はさらに大きくなると考えられる。また、COD濃度も減少し実験を開始してから3週間後には実に数mg/Lまで低下した。

通電条件のRun2〜4において、流出濃度は電流密度の増加により変化した。NH4−N、NO3−NおよびTNの濃度は、電流増加により減少した。流出NH4−N濃度は、Run1では30数mg/Lであったが、1.5Aの電流を与えたRun4では30mg/L以下になった。水の電気分解により発生した酸素により、陽極ユニット内に充填した接触ろ材に付着した硝化細菌の活性が増大したためと考えられる5)。流出NO3−N濃度の変化はNH4−N濃度の変化より著しく、Run1において50mg/L以上であったが、Run4では20mg/L以下まで低下した。流出TN濃度の変化もNO3−N濃度の変化と同様で著しく、脱窒処理における通電の効果は明確であった。これらの結果とは逆に、流出のCODおよびNO2−Nの濃度は、電流密度の増加に伴い上昇した。COD濃度に関しては、Run4において僅かの増大であるが、これは電解による還元性物質の生成の可能性もあり、今後詳細に検討する必要がある。NO2−N濃度は1Aの電流を与えたRun3から上昇し始め、Run4では9mg/L付近まで増大した。この原因も現段階では明らかでないが、NO2−Nが硝化・脱窒素の双方の過程で生成し蓄積したためと予想される。なおRun5は、現在実験中である。

 さらに、図−2の結果を基に、式(1)および式(2)より各Runにおける硝化および脱窒素の速度を算出した(表−3)。また表−3には、ファラディー則より計算した電解による硝化・脱窒素の理論速度も示した。

(1)
(2)

図2 EDLCの用途展開

 ここで、Q:流量(L/d)、INF:流入、EFF:流出、NIT:硝化、DEN:脱窒素である。表−3には対照実験の結果も示したが、その時の硝化速度は約100mg−N/dで、脱窒素速度は約325g−N/dであった。通電により双方の速度とも増大したが、その増大速度は硝化に関して電流0.5Aで50mg−N/d、1.0Aで200mg−N/d、1.5Aで375mg−N/dであった。増大脱窒素速度については、表−3に示したようにそれぞれ250mg−N/d、475mg−N/d、900mg−N/dであった。この時の電解による理論速度は表−3に示した通りであるが、これらの値と実測値を比較すると、実測値の方が小さいことがわかる。電解により陽極から発生した酸素の10%程度が硝化反応に利用されたと考えられる。既報の結果5)より低い利用効率となったが、これは、電極に微生物を直接固定化する微生物電極とは異なり、陽極の周辺に微生物担体を充填してユニット化する方法を採用したこと等の影響と考えられる。本研究では脱窒を主な目的としたため、陽極については担体充填型ユニットを採用した。また、好気性微生物により脱アミノ化の反応が進行したとすると、その反応にも電解酸素が利用されたと考えられる。一方、陰極から発生した水素の微生物による利用効率は20数%で、電解酸素利用効率と比較すると2.5倍程度高かった。フェルト状炭素を陰極に用いたことにより、陰極フェルトユニットが微生物固定化電極のように機能したためと考えられる。しかしながら、水素利用効率は決して高いとはいえず、今後フェルトの充填量を増やす等の対策を講じ、通電効率を高める必要がある。
 
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