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前橋工科大学




前橋工科大学 建設工学科 講師 田中 恒夫


 
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1. はじめに
2. 燃料電池膜(MEA)とメタノール方燃料電池(DMFC)
3. マイクロファブリケーション法の利用 
4. まとめ
  


4.マイクロファブリケーション法の利用

 新規な燃料電池膜を実現するために注目したのがマイクロファブリケーション法と呼ばれている超微細精密加工の技術です。(株)オプトニクス精密では各種リソグラフィー技術、電鋳技術、スパッタ技術また表面処理技術を組み合わせて、マイクロ/ナノのスケールでの精密微細加工を行う優れたマイクロファブリケーション技術を持っています。図4は同社によるマイクロ/ナノ構造体の例です。リソグラフィーと電鋳を組み合わせたLIGAプロセスと呼ばれる方法で作製され、非常に高い精度で微細加工が行われています。

図4 LIGA(UV-/X線リソグラフィー+電鋳)プロセスによるマイクロ/ナノ構造体((株)オプトニクス精密)

 この様な技術は燃料の移動抵抗を減らすことができる、カーボンペーパーに交わる新規多孔質膜材料に応用できます。また、ミクロな燃料チャネルを刻んだ薄膜支持体として小型薄膜燃料電池への応用が可能です。さらにこれらの構造体に表面加工をすることで泡切れの良さを附加することもできると考えています。図5は高分子電解質膜の表面に数ナノメートルの厚さで白金が膜状に付けられた様子です。白金膜を高分子膜に剥がれないように付けることができます。これは電解質膜の表面のみに集中的に触媒を付ける方法として利用できます。白金膜を強固に高分子膜上に付けるための前処理にノウハウがあり、私の研究室ではうまくできません。

 さて、図6は図2にイメージしたようなカーボン粒子に貴金属微粒子が担持された触媒を用い、触媒層を作ったときのDMFCの発電特性の例です

図5 高分子電解質膜表面に付けられた白金膜(厚さ数ナノメートル)

 燃料極の触媒の量を基準のものから1.4倍、2.1倍と増加させたときの触媒量が電池の発電特性におよぼす影響を表しています。触媒の量と同時に触媒を担持しているカーボン粒子の量も同時に増えており、触媒量の増加は同時に触媒層の厚さが増加していることにもなります。図6では、触媒量を増やすと電流密度が小さい領域(およそ400mA/cm2以下)では電圧が上昇しています。これは電池の効率がより高くなったことを意味します。しかし、電流密度が高い領域では触媒量を1.4倍から2.1倍に増やしても電圧は上がらず逆に下がっていることが分かります。DMFCではメタノールから水素イオンを引き出すために触媒を必要とし、その量は比較的多くなります。従来の触媒と従来の作り方で触媒量を増やすと触媒層の厚さが厚くなり、そこを通してのメタノールの移動抵抗が大きくなってしまうためこの様な結果が出てしまうと考えられます。この方法ではこれ以上効率を上げることは望めません。しかし、触媒となる貴金属を必要な場所に、集中的に付けることができればもっと効率を上げることができるようになります。図5に示したような、高分子電解質膜の表面に直接貴金属触媒を付けるマイクロファブリケーション法を用い、従来の作り方をした電極の電解質と触媒層の間に厚さ数ナノメートル程度の新規触媒層を導入することによって、電池の出力をおよそ2倍に向上できました。しかも従来の作り方の触媒量に対して新たに加えられた量はその百分の1以下というわずかな量です。現在この新規触媒層を導入しての触媒層の最適化に関する検討を行っています。
 本研究は3年計画で進められています。次なるステップとして、カーボンペーパーに代わる新規な拡散層の開発へと移っていく予定です。そして、新規な触媒層と新規な拡散層とから成る新規な燃料電池膜を開発することを目指していきます。

図6 直接メタノール形燃料電池の発電特性と触媒量の関係

 DMFCの燃料極ではメタノールが水と反応することによって水素イオンが引き出されます。この反応で同時に二酸化炭素が生成します。この反応を通して一つのメタノール分子から理論上6つの水素イオンが引き出せますが、そのために触媒にかかる負荷は大きく、触媒の量は水素燃料の場合に比べて多く必要になってきます。高価な貴金属触媒をなるべく上手に使うことが重要です。また、生成する二酸化炭素はガスです。触媒層に泡が滞留すると電極反応の場となる反応活性点を塞いでしまったり、カーボンペーパー中に滞留することによって新しい燃料の供給を阻害したりして電極特性を低下させ、また不安定なものにしてしまいます。発生する二酸化炭素の量は電池で流す電流により異なりますが、条件によっては流すメタノール水溶液の数倍の体積にもなります。「泡切れ」のよい電極構造や材料表面が必要です。

 DMFCではメタノールの一部が電解質膜を直接透過してしまうクロスオーバーと呼ばれる現象の問題で、電圧がそれほど上がらず、水素を燃料にする燃料電池に比べ効率は大きく下がると言う問題もあります。しかし、メタノール燃料は単位体積当たりで比較すると水素に比べ格段に大きく、またリチウムイオン電池の10倍にもなる可能性を持っているので、次世代の携帯用電子機器の電源や自動車用にも注目されています。その研究は比較的浅く、まだ始まったばかりと言っても良いかもしれません。携帯用途などでは、燃料電池膜を支える支持材等を含め、従来にない新規な構造の燃料電池の開発研究も行われはじめています。DMFCでは適した触媒層の構造やカーボンペーパーに変わる有効な材料などについて検討の余地が大きくあります。これらの工夫で効率を高くできれば、DMFCを実用化できると考えています。
 
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