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前橋工科大学




前橋工科大学 建設工学科 講師 田中 恒夫


 
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1. はじめに
2. 燃料電池膜(MEA)とメタノール方燃料電池(DMFC) 
3. マイクロファブリケーション法の利用
4. まとめ
  


2.燃料電池膜(MEA)とメタノール方燃料電池(DMFC)

 一般的な燃料電池膜(通常はMEA ; membrane electrode assemblyと呼ばれています。)の概要を図1に示します。

図1 一般の燃料電池膜の構造

 電解質膜が二つの電極の膜で挟まれた構造になっています。電解質にはパーフルオロカーボンスルホン酸系の高分子が用いられます。電極は、一般にカーボンペーパーやカーボンクロスに触媒が塗布されたもので、これがホットプレスなどの方法で電解質に結着され一体化されています。

 触媒としてはアセチレンブラックなどの炭素微粒子に白金系の貴金属触媒が担持されたものが使われます。燃料に接する電極(燃料極)も空気に接する電極(空気極)も通常はだいたい同じような構造をしています。単純な構造のように見えますが、実はこの図では表しきれない電極や電極と電解質の界面部分の非常に微細な構造が電池の性能に大きく影響するのです。微細構造と電極特性との関係は、電極の各部分で何が起きているのかを考えることによって理解できます。

 燃料極では電極反応によって燃料が水素イオンと電子とに分かれ、水素イオンはイオン導電体である電解質中を、電子は電子導電体である炭素粒子やカーボンペーパーを通り、それぞれ別の経路を伝って空気極へ向かいます。電極につながれた電線を通る電子の流れが、電力として利用されます。ここで電極反応がどこで起きるかを考えてみると、燃料が空隙に、水素イオンが電解質に、また電子がカーボン材にと、それぞれの通り道が限られることから、それらの三つが接するところが反応の起きる場として重要であることが分かります。

 図2は燃料電池膜の電解質と触媒層とが接触している界面の微細構造のイメージ図です。

図2 電解質と触媒層の界面の微細構造のイメージ

 カーボン粒子は数十ナノメートルの大きさです。空隙と電解質とカーボン粒子が接するところは全体の一部に限られます。またカーボン粒子でも触媒が付いたところでないと実際には反応が進まないことを考えると実際の反応場は触媒層の空間の中でも極一部分に限られてしまうことが理解できます。反応場の大きさは取り出せる電流の大きさに効いてくるので、反応場を増やすための工夫が重要であり触媒層に電解質成分を混ぜたり、触媒粒子の分散性を高めたりすることが行われています。また、空隙をとおして燃料が移動するので、適当な空隙を保持しておく必要もあります。このような微構造に影響をもたらす粒子混合や粒子分散操作などでも電池性能は桁違いに変わることがあります。

 直接メタノール形燃料電池(以下DMFC)の場合、触媒層やカーボンペーパー部分の微細構造の重要性は水素を燃料とする場合に比べてさらに大きくなります。

 図3にメタノール水溶液を供給するDMFCのMEA断面と電極反応の概要を示します。

図3 液供給DMFC電極部の概要

 DMFCの燃料極ではメタノールが水と反応することによって水素イオンが引き出されます。この反応で同時に二酸化炭素が生成します。この反応を通して一つのメタノール分子から理論上6つの水素イオンが引き出せますが、そのために触媒にかかる負荷は大きく、触媒の量は水素燃料の場合に比べて多く必要になってきます。高価な貴金属触媒をなるべく上手に使うことが重要です。また、生成する二酸化炭素はガスです。触媒層に泡が滞留すると電極反応の場となる反応活性点を塞いでしまったり、カーボンペーパー中に滞留することによって新しい燃料の供給を阻害したりして電極特性を低下させ、また不安定なものにしてしまいます。発生する二酸化炭素の量は電池で流す電流により異なりますが、条件によっては流すメタノール水溶液の数倍の体積にもなります。「泡切れ」のよい電極構造や材料表面が必要です。

 DMFCではメタノールの一部が電解質膜を直接透過してしまうクロスオーバーと呼ばれる現象の問題で、電圧がそれほど上がらず、水素を燃料にする燃料電池に比べ効率は大きく下がると言う問題もあります。しかし、メタノール燃料は単位体積当たりで比較すると水素に比べ格段に大きく、またリチウムイオン電池の10倍にもなる可能性を持っているので、次世代の携帯用電子機器の電源や自動車用にも注目されています。その研究は比較的浅く、まだ始まったばかりと言っても良いかもしれません。携帯用途などでは、燃料電池膜を支える支持材等を含め、従来にない新規な構造の燃料電池の開発研究も行われはじめています。DMFCでは適した触媒層の構造やカーボンペーパーに変わる有効な材料などについて検討の余地が大きくあります。これらの工夫で効率を高くできれば、DMFCを実用化できると考えています。
 
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