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「小耳にはさんだいい話」へ


351号〜360号


 
 
 352号 努力には無駄がない
  愛媛県久万高原町に住む小倉くめさんとは二十年来のお付合いになります。くめさんは『秘めだるま』という季刊誌の発行を続けて四十一年。先日届いた秋冬号が第百六十三号でした。そして、南海放送の『ラジオエッセイ・くめさんの空』も三十年を超える長寿番組です。『秘めだるま』も『くめさんの空』も、人として明るく正しく生きるヒントが満載です。
 くめさんは今年七十八歳。脊柱側弯症という障害をもって生まれ、いじめや辛い思いをしてきました。その経験から、全ての人間に平等が保証される社会を目指し、「難しいことをやさしく、やさしいこと深く、深いことをおもしろく」四国のお国言葉の久万弁で明るく語りかけてくれます。
 『秘めだるま』や『くめさんの空』でよく紹介されるのが、日本を美しくする会相談役の鍵山秀三郎さんの言葉や、ネパールで支援活動を続けているOKバジの紹介。相田みつをさんや星野富弘さんの詩なども、くめさんの温かい語り口で紹介されています。十一月十七日の放送では鍵山秀三郎さんの「努力には無駄がない」という話をくめさんが朗読して心に沁みてきました。「私が努力には無駄がないというと、九十九%の人が『そんな馬鹿な、世の中そんな甘くないよ』と言います。努力するよりも要領よく立ち回った方が、手を抜いてでも手っ取り早くやった方が勝ちだという人も少なくありません。ところが、努力には無駄はないというのは本当なのです。自分が期待した形になって戻ってこないから一見無駄のように感じますが、必ずそれは形を変えて戻ってくるのです。今の世の中、点数至上主義や利益至上主義という物差しで見ようとして、何かをつかんだ方が勝ちだという風潮になっていますが、世の中をよくしていくには、目立たない小さなことに対する努力に目を向け、評価してあげるという視点が必要なのではないでしょうか…」
 二〇二四年秋冬号の表紙には、「あなた良し、わたし良し、地球良し」の言葉が添えられています。『秘めだるま』は足利屋の休憩コーナーでも見られます。
 351号 あの人に会いたい
 詩画作家・星野富弘さんがご逝去されて半年が経ちました。富弘美術館の入口には、弔問のための記帳所が設けられ、毎日多くの方が「富弘さんから生きる勇気や感動をもらった」などのメッセージを記しています。 
 十月十九日にはNHKの『あの人に会いたい』という番組で富弘さんの生涯が紹介されていました。三十年前の『こころの時代』に出演した時の若々しい富弘さんから、八年前に『ほっとぐんま640』に出演した時の円熟した富弘さんの笑顔や温かみのある声が画面から流れ、改めて富弘さんの魅力を感じました。 
 富弘さんは体育教師になった二か月後に部活の指導中にケガをして首から下が全く動かなくなりました。「早く命が終わればいい」と思った富弘さんでしたが、お母さんは入院中の九年間ずっとベッドの横の狭いところで寝起きして看病を続けました。富弘さんの『ぺんぺん草』の作品にはお母さんへの思いが込められています

神様がたった一度だけ
この腕を動かして下さるとしたら
母の肩をたたかせてもらおう
風に揺れるぺんぺん草の
実を見ていたら
そんな日が本当に
来るような気がした

 富弘さんは番組の中で「花って秋になると枯れてきますよね。でも虫に食われちゃったり、花びらが揃ってない方が面白い。自分の嫌な面も繕わず、そのまま受け入れて生きる方が楽だと思います」と話していました。
 七十八年の生涯を全うされた富弘さんから、全てを受け入れ、ありのままに生きる強さと優しさを教えてもらいました。「あの人に会いたい」と思った時、やさしさにいつでも逢える富弘美術館があり、富弘さんを囲んで撮ったたくさんの写真が私たちに「がんばれよ」と声をかけてくれています。