「収縮率から寸法変化率への変更について」
2000/03/14 更新
インデックス
--表示のしかた,織物の方が雑?---収縮率と言う名の亡霊がいる---基準値--
H11年10月にJISの一部が改正され,【収縮率】を【寸法変化】に統一しました.
その理由は,消費者にとって【収縮率】がわかりにくい表現であるためです.
【収縮率】では,プラスの符号は「縮み」を表していため,マイナスが「伸び」となってしまいます.(確かにわかりくい表現かもしれません)
また,国際的には【寸法変化】が一般的です.(ISO 3758にも適合)
そのため,業界には浸透していたましたが,【収縮率】を【寸法変化】に改正しました.
【寸法変化】では,プラスの符号は「伸び」,マイナスが「縮み」を表す事になります.
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具体的には,その計算方法ですが,
(【処理後の長さ】−【処理前の長さ】)/【処理前の長さ】となります.
今まで,【収縮率】と呼んでいたものを【寸法変化】と言い換え,符号のつけ方を正負逆にする.
これだけのことになります.
本質的にはこれだけ改正すればいいのですが,少々問題があるのです.
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具体的には,どの様に変わったのでしょうか?
[JIS L 1042 織物の収縮率試験方法]を廃止し,[JIS L 1096 一般織物試験方法]と[JIS L 1018ニット生地試験方法]の中の【収縮率】は【寸法変化】として,[JIS L 1909繊維製品の寸法変化測定方法]から引用する様に改正しました.JIS L1909 で扱う範囲は,製品と布(ここでは,織物,編物,不織布です.)
その処理方法ですが,【寸法変化】(織物では,JIS L1096 8.64 ,編物では,JIS L1018 8.58)はJIS L1909 を引用するが,「ただし試験の目的によって次の処理方法又は測定方法を組み合わせて用いる.」と書かれ,以下,いろいろな処理方法が書かれている.これらは,実質的に廃止されたJIS L 1042と同じです.
つまり,処理方法又は測定方法は,JIS L1909 または,JIS L1042 (ただし,正負の符号は変える)を引用することになり自由度があることになります.
JIS L1909
JIS L1096
JIS L1018
扱う範囲
布
織物
編物
処理方法
様々な処理
A法からJ法
A法からG法
試料の大きさ
500mm×500mm
250mm×250mmなど
試料数 4点
3点(一部例外)
備考 2回に分けて試験を行うことが望ましい.
表で比較すると,かなり違っていることがわかります.
極端な話,やり方が2通りと言ってもいいのです.
しかし,JIS L1909 に従って,H法はやりたくないなぁ.500mm×500mmの生地を2枚同じに処理なんて.
この,JIS L1909 に従うと,改正前は,織物,編物とも0.1%単位に丸めて収縮率を表示していましたが,編物では,0.1%単位,織物では0.5%単位となってしまうのです. どうして,このようになってしまうのでしょうか?
改正前 JIS L 1909 織物
0.1%単位 0.5%単位 編物
0.1%単位
0.1%単位
編物ではJIS L1018 8.58.4 小項目 e)で計算の項があり,数値の丸め方を0.1%単位としていますが,織物ではJIS L1096 8.64で,JIS L1909 を引用することが書かれているだけで,計算の項はありません.
そのため,JIS L1909 に従い,0.5%単位に丸めて表示することになるのです.
JIS L1909 解説の中で,「編物は,伸縮性のため寸法の安定性は信頼できない」と問題点を指摘している.それなのに...
これは,まったく理解に苦しみます.
実際に測定を行う立場からすると,編物の方が伸びてしまい,織物より測定誤差が大きい様に感じられます.そのため,織物の方が,値の取り方が粗いのは不合理と思われます.
また,JIS L 1909 は 比較的大きなもの(製品)を扱っています.そのため,0.5%単位で十分なものかもしれません.この数字の丸め方は,ISO5077を元にしているようです.
[JIS Z 8401 数字の丸め方]の中に[ASTM Designation E29-60T]として,[5,0.5,0.05などに丸める方法]としてこの0.5%単位に数字を丸め方法が,参考とてして書かれています.
想像を交えて言うと,JIS L 1909 は ISO3759および5077,に規格を合わせるために作られたもので,【収縮率】と呼んでいたものを【寸法変化】と改正したときに,JIS L1909 を引用したことは,木に竹を接ぐ行為だったのかもしれません.
また,わかりやすくするためには,JIS L1096 8.64に計算の項のつけるべきだと思います.さらに,結果の具体例を載せるべきだと思います.廃止されたJIS L 1042 には具体例が載っていました.
さて,【収縮率】と言う言葉は完全になくなったのでしょうか? 実は残っているのです.
[JIS L 1057 アイロン収縮率]は廃止されていません.
[JIS L 1096 一般織物試験方法 8.46]に【アイロン収縮率】と言う項があります.
実際に,製品がアイロンで縮んでしまったというクレームに対し,生地の生産者が生地のせいではないと主張するために,寸法変化『H-2法(蒸気オープン法)』と[JIS L 1057 アイロン収縮率]を行いました.
結果の数値ははここでは書きませんが,この二つの試験を比べると,符号の使い方が逆になってしまいます.これには困りました.
この収縮率試験には,基準値と言うのがついて回ります.
これはJISで定められたものではありません.これは買い手の業界で決められているようです.婦人服,アウター,いす張りなど用途に応じ,それぞれの基準値があるようです.
この基準を満たさない物は,それを不合格として,製品にしないのです.生産者からすると,それが売れるか,売らないかであり,死活問題となります.
そして,0.1%に泣くこともあるのです.この基準値と製品のクレーム(縮んだ!とか)の間にはどの程度相関があるのでしょうか? 私には,時々わからなくなります.
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この基準値の書き方も,ときどき,有効数字を考えてないときがあります.
こんなことも言って見たくなる時もあります.
A:「3%以下が合格です」
B:(あなたは有効数字を整数位で考えていますね)
「ならば,3.4%は合格ですね」
(この数値を整数位で四捨五入すれば,3%になりますもの)
では,最後に,どうすればいいのか,一案を書いてみます.
JIS L について,【収縮率】と言う単語を【寸法変化】と言い換える.符号のつけ方を正負逆にする.「縮み」を「マイナス」で表す事にする. 【寸法変化】の言葉が定着する様にする.
ISO との整合性は,扱う製品,洗濯の処理方法が必ずしも同じではないので,ISOをその技術的内容を変えることなしに,日本語化し試験方法として取り入れる.その後,不必要になった試験方法を除いていく.
また,編物では JIS L1018 8.58.4 小項目 e)で計算の項を設けています.同様に,織物でも JIS L1096 8.64に計算の小項目を設けることが必要だと思います.