第25話 富士山(2) 空翔ける弁当 (2000.11.29)
富士山の話の続きです。 今回はちょっと長めですが、とりあえず最後まで読んでやってください。
高山病にかかると、ドラクエで言えば毒状態である。 歩けば体力減るし、休んでいても体力が減る。(←ドラクエは休んでいれば減らないが) 例えば風邪でだるいときは動きたくないが、今は本当にだるいのに歩かなければならない。 それでもなんとか8合目の山小屋までたどり着いた。
その山小屋は想像を絶するぐらいひどいところで、簡単に言ってしまえば広い屋根裏部屋に布団が敷き詰めてあって、そこに何十人もの人が寝る感じ。 一人あたりのスペースは、布団一枚の縦半分ほどである。 しかも7000円! 普段なら「味があっていいな」と思うかも知れないが、高山病状態の私にとっては、息苦しくて泣きたいぐらいだった。 家が恋しくなった。
お腹は空いているはずなのに、ご飯はのどを通らないし、無理やり食べたら吐き気がくるし。 実際に吐くために便所に駆け込んだ。 あまりの臭さに、入った瞬間に吐いた。 後処理をしようとしたが、なんと水が流れない。 富士山では水は貴重であるので、もともと流れないようにできているのだ。 水の変わりに少量の泡が出てきた。 んなもんで流れるかっちゅーの! 仕方ないのでほっといた。
すっかり夜になった。 「なんかすずしくなってきたな」とは思ってはいたが、そのころには耐えられないほどの寒さになっていた。 昼間はTシャツ1枚でいられるぐらい暑かったのに、何でこんなに寒いの? 富士山に来る前はこの寒さは想像していたが、登っている間は夢にも思わなかった寒さだ。 はっきり言って、来る前の想像をはるかに越えるものだった。 寒い、だるい、きもち悪い、頭痛い……。 泣きたかった。
日の出を見るのが目的だったので、朝(?)2時に起きて、暗闇の中、登山を続けることになっていた。 2時の寒さは半端ではなかった。 気温2度。 「たいしたことないじゃん」と思うかも知れないが、今は夏である。 ある程度の装備はしているものの、真冬の装備ではない。 ほとんど寝てない、寒い、だるい、きもち悪い、頭痛い……。 帰りたかった。
体調はいつもの10%。 それでも登り始めた。 山小屋を出るときに、弁当を受け取った。 この弁当こそが今回の主人公である。 そして1時間半ほどで9合目にたどり着いた。 みんな体力の限界である。 しかも下山する体力も残しておかなければならない。 誰もが「これまでか……」と思っていた。
とりあえず9合目の休憩所で休むことにした。 とりあえずおでんを食べて、温かいものを飲んで。 暗い、風が強い、寒い、だるい……、あれ? そういえば少し体力が回復しているような……。 おでんもおいしく食べられたし、スープもおいしかったし……。 今思えば、本当においしかった。 私はなぜか実際に体力が回復し始めていた。 うすい空気に体が慣れてきて、高山病が治り始めていたのかも知れない。
ここでGさんに悲劇が起きた。 なんと目にゴミが入ってはずしたコンタクトが、風で飛ばされてしまったのだ。 あんな強風の中、屋外でコンタクトをはずすのはアホである。
Gさん「さ、3万円が〜!」
長いこと休みすぎてしまった。 それでも山頂を目指すことにした。 しかし残念なことに、ここで1人脱落者が出てしまった。 なんとリーダーである元山岳部のU君だ。 バツとして、彼にはもう一度富士山に登ってもらおう。
なんとしても頂上で日の出を見たかったが、頂上に向かう途中、日は昇り始めてしまった。 少し悔しかったが、それでも感動の方が大きかった。 雲海、大きな太陽、くっきりと映る山の影。 言葉で景色のすばらしさを伝えるのは難しいねぇ。
日は昇ってしまったが、とりあえず頂上を目指した。 そして頂上に着くと同時に弁当を食べる場所を探した。 風よけになる岩の陰に座り、弁当を開けた。
「大きな仕事をやりとげた満足感の中食べる弁当は美味いんだろな」
そして弁当の一口目を食べようとしたその瞬間、思わぬ突風が吹いた。 そして私の弁当は、この話のサブタイトルになった……。 弁当はなくなったが、下山という任務は残った。 つづく。
結論: 富士山は物価が高すぎ。 山小屋7000円、おでん1000円。 さらに自動販売機で売っているジュースは350円である。