第11話 死の予感 (2000.09.25)


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今年は一度だけ海に行ってきた。 本当は毎年もっと何回も行くんだけど。 今回は今年海に行った時の事件についてお話しましょう。 ところであなたは「死ぬかも」と思ったことはありますか? おそらくないでしょう。 でも私はあります。 結構ディープなネタなんで、そういうの苦手な方は、上の「戻る」のボタンをポチッとな。

その日は友人と9人(だったかな?)で新潟の海に遊びに行った。 どこの海岸という目的もなかったので、すぐに見つけたあやしい海岸で泳ぐことにした。 時期のわりには空いていて、なかなか楽しめそうな場所だった。 新潟の海は、波がとっても静かな印象があったけど、その日の海は少し荒れていた。 波は高いほど楽しいという考えを持っていた私には、数時間後自分の身にあんなことが起こるなんて、予想できるはずなどなかった……。

波が高かったので、シャチ(浮き輪みたいに空気入れるやつ)で波乗りが面白いように決まった。 友達におだてられ、つい調子に乗ってしまい、派手な波乗りを続けた。 もう帰ろうかというころ、これが最後と決めて、シャチと共に海に入った。 とりあえず波が高いところまで行こうと思い、シャチに乗ったまま沖の方へ向かったのだが、気が付くと波がかぶさって来る地点を越えてしまっていた。 一瞬のことだった。

やばいと思い、とりあえず浜辺の方に戻ろうとバタ足を始めたが、全く進んでいる気がしない。 波がすごいのだ。 海の下の砂を蹴って進もうと思い、シャチから降りた。 次の瞬間、頭の中が真っ白になった。 なんと全く足がつかないのだ。 勢いをつけて、思いっきり沈んでみたが、やはり足はつかない。 この時点で、最低でも2mの深さがあることが予想された。

冷静に考えるために、とりあえずシャチの上に戻ることにした。 しかし予想外にそれは困難だった。 足が底につかないため、勢いをつけて上ることができない。 よって、腕の力だけでシャチに乗らなければならないのだ。 しかもあまり力を入れすぎると、シャチは転がってしまって、自分も落とされるのだ。 よく覚えていないが、1分ぐらい格闘しただろうか。 水も飲んだ。 その末、乗ることは不可能と判断した。

シャチを片手に、かろうじて浮いていることはできる。 これはもう、助けを呼ぶしかないと思った。 辺りを見渡すと、20mぐらい離れたところに、友人のH君(べつに助平という意味ではない)が浮き輪で浮いていた。

「Hく〜ん!」

手を振りながら必死で叫んだ。 しかしH君は、にっこり微笑んで、手を振り返した。 だめだ……。

残りHPも50ぐらいになっていた。 確実にベホイミをかけておきたい場面だ。 このままでは溺れてしまう……。 もう、シャチに乗るしかないと思った。 もう必死でシャチに食らいついた。 シャチには、腕というか、ヒレというか、とにかくつかめる部分があるのを発見した。 (腕と呼ぶことにしよう) それを思い切り握り締め、なんとかシャチに戻ることができた。 しかし、シャチの腕を握り締めたのがいけなかった。

ホッとして、冷静に考え始めたのもつかの間、次の悲劇が襲ってきた。 シューーー……! おい!シューって!? まさかとは思ったが、そのまさかだ。 誰かにこの話をしたとき、「まんがみたいだ」と言われたが、本当にまんがだけにしてほしいものだ。 シャチの腕の部分のつなぎ目が切れてしまい、一気に空気が抜けた。 不幸中の幸い、シャチには予備用の空気層が残っていて、かろうじて命綱の役割は果たしていた。 しかし残りHPは20。 パラメータ表示の文字も黄色になっている。 正直言って、死の予感がした。 「まだ死にたくない」とまで思った。

もう救助に来てもらうしかないと思い、今度は砂浜にいたM君に助けを呼んだ。 M君は気付いてくれたらしいかったが、なんかよくわからなかったらしく、特に動きはなかった。 もう自力で戻るしかないと思った。 残りのすべての力を使い果たし、浜辺に向かうしかないと思った。

ここで大きな決断が迫られた。 それはここでシャチを捨てて泳ぐか、シャチを持って泳ぐかである。 すでにシャチは、小さなビーチボールぐらいの浮力しか持たない。 シャチを捨てれば、普通にクロールできるので、速く進むことができるだろう。 しかし途中で力尽きた場合は、その時点でゲームオーバーだろう。 シャチを持って泳げば、速さは半減するけど、途中で力尽きても、シャチにつかまって、体力の回復を待つことができるかも知れない。 私は後者を選んだ。 その選択によって、生死が分かれるかも知れない。 もちろんどちらも正解(生)の場合もあるし、どちらも不正解(死)の場合もある。 あの状況では、後者を選ぶのが人間の心理というものであろうか。

必死に泳いだ。 しかし、泳いでも泳いでも景色が変わらない。 それでも一心不乱に泳いだ。 というかもがいた。 ついにHPが0になった。 ドラクエでいえば死を意味するが、ここではFFの戦闘不能のことを意味する。 私の体は、泳ぐのを停止した。 どうにかシャチにしがみついて、体力を回復させようとした。 その時だった。

「助かった……」

おそらく10mも泳いでないと思うが、なんと足がついたのだ……。 やっと恐怖から開放されたのだ。 まあ、5〜10分ぐらいの恐怖だったと思うけど。 大地の感触が、懐かしく、頼もしく感じたものだ。 わしゃ、もう海に行けないかも……。

結論:ビールを飲んだら海に入るな!海に入るならビールを飲むな!


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