「確かな学力」の向上を図るITの活用

          「IT活用を定着させる校内体制の整備」


                                                 川村学園女子大学教育学部教授
                                                                古藤泰弘


対応のポイント
@ 行政の強力なIT支援がありながら、なぜIT活用が定着しないのか。まずは、その原因を冷静かつ大胆に追究することだ。
A コンピュータをどう利用するかではない。授業をどう作るかが基本である。授業づくりと一体になったOJT研修体制への整備が必要だ。
B 何のためにITを活用するのか。学習指導要領の総則を読み直そう。
C 教師個々人のキャリア・アップだけでなく、学習する組織の成長が肝要だ。そうすればIT活用が確かなものになる。



まだ耳新しい話だが、昨年十一月、会計検査院は、全国の公立小・中学校約五〇〇〇校を対象に、コンピュータの利用状況について調査した結果の検査報告を行っている。
 現場の教師はコンピュータを利用した授業の進め方が分からず、IT設備を持て余している。「多額の国費を投入して整備しているコンピュータ教室等の効果的な活用の面からみて、改善の必要が認められる」と指摘した。
 今後、教科等においてコンピュータを積極的に活用できるよう「教師の研修体制の整備が必要がある」との改善意見が表示されたのである。


1.なぜ、IT活用が定着しないか

「すべての授業でコンピュータの活用を!」−文部科学省や各教育委員会をはじめ、多くの学校・団体が、あらゆる機会に、あらゆるところで、何度も何度もこう叫んできた。
 だが、会計検査院の指摘のように「利用されていない」のである。なぜだろうか。原点に戻って、その理由を多少解きほぐしてみることにしたい。
@ まず第1に挙げられる理由は、「パソコンの操作が難しい」ことである。
 「以前と比べればずっと操作が易しくなった」というが、メーカーの技術者でさえ「今のパソコンは家電並にはいかない。操作が難しい」という。「時間にして一〇分程度説明しても操作が分からない家電は売れない」ともいう。パソコンはとても一〇分程度で説明できる代物ではない。
 教師はティーチャーであってオペレーターではない。この視点に立ってパソコン研修の在り方を根本的に転換しなければ、操作性の問題は解決しない。ティーチャーに適した研修方式に切り替える必要がある。
A 次に指摘したいのは、教師は、潜在的?に「授業での機器メディアの使用を回避する」傾向が強いことである。
 このことは、すでに放送教育や視聴覚教育(テレビ・VTR、映画やOHPなど)あるいは教育機器利用(シート式磁気録音器や反応分析装置など)で実証済みだ。授業での機器メディア活用の必要性が強く要請されながらも、全体的にはどのメディアもあまり利用されなかったし、定着をみなかった経緯がある。
 その最大の要因としてマニア的な特殊な利用法に振り回されたことがあげられる。常に、マニア的な利用が世間の注目を浴びる。だが、多くの教師は、それで本当に授業改善が実現するのだろうか疑問を抱く。やはり、一部のメディアに強い者(ハッカー)のためのものだという部外者意識を持つことになる。一般化しないのである。パソコンもこの傾向が強く見られる。
 さらに問題なのは、流行のようにメディアの主流が入れ替わっていくことである。「どうせ、また、次の新しいメディアが出てくるので」というわけだ。
 こうして「メディア回避の潜在的意識」がいっそう強化されていく。
B もう一つ挙げなければならないのは、機器メディアを使用しなくても、ちゃんと?「授業」ができるのである。あえて手間暇をかけ冒険を覚悟でメディア利用の必要性を感じない意識状況がある。
 かつて「教科書とチョークと黒板による手工業的な授業」と揶揄されたことがあるが、それが一番無難な授業という意識は今も払拭されていない。
 その最大の原因は、なぜ、この子どもたちに、この内容を学習させるのだろうか、という授業づくりにおける「問い」(課題意識)の乏しさにある。「確かな学力」に繋がる問題でもあるが、ITを活用すれば「学力」が向上するといった単純な問題ではない。
   
2.OJT(on the job training)を研修体制  の基本に

 以上のような現状認識を踏まえ、「確かな学力」を視野に入れて考究してみると、「問い」のある授業づくりを基本にした研修体制へと、抜本的に変革する必要があると考える。
 冒頭で紹介した会計検査院の検査報告が明らかにしているが、授業内容の大半が「機器の立ち上げ、終了等の操作」方法の学習に当てられている。これは、教師研修の反映だと思うが、この考え方を根本から転換する必要がある。
 まず「授業」と離れた形でのパソコン研修(off the job training)は止める。教科指導と一体化させ「授業」と直結した形での研修(on the job trining)に転換するのである。
 その上で、パソコンを含めた機器メディアの利用を検討し、授業展開の場面に応じてハードの操作が必然的に伴うような研修内容の構成を図る。
 従って、校内研修で最初に取り組むのは「授業づくり」である。メディアをどう操作しどう利用するかではない。メディアのための授業を考えるのではなく、どんな「授業」にするか考えるのである。「問い」のある授業づくりへの挑戦から始めるのである。
 教材を必要としない授業はあり得ないわけで、「問い」(課題意識)のある授業づくりに取り組むと、必要とする「教材」が自然に見えてくる。そこで、その「教材」にふさわしい機器メディアは何か、パソコンを含め検討するのである。組織的には授業研究部会とメディア部会の共同部会での検討になる。
 この段階で初めてメディアが登場し、「指導内容と利用法と操作」の三位一体の実際的な研修を行うのである。
以上のように、授業づくりと一体になったOJT研修体制を基本に整備することである。

3.ワン・オブ・ゼム(one of them)の  考え方を大切に

 OJT研修体制では、具体的な授業を対象に実践的な研修が中心になる。その際に大切なのは「授業にとってパソコンがオールマイティではない」ことの確認である。
 ややもすると、コンピュータでなければ授業は改善されないとばかりに、他のメディアを無視してしまい勝ちである。そこにマニアに陥る危険性がある。パソコンも多くのメディアの中の一つに過ぎないという姿勢で、他メディアとの併用を試みることが肝要である。
 そのためにも、今一度、学習指導要領「総則」(指導計画の作成に当たって配慮すべき事項の2)を読み直して欲しい。
「各教科等の指導に当たっては、生徒がコンピュータや情報通信ネットワークなどの情報手段を積極的に活用できるようするための学習活動の充実に努めるとともに、視聴覚教材や教育機器などの教材・教具の適切な活用を図ること。」(中学校の「総則第六、2(9)」)
 高等学校もほぼ同様の内容である。小学校では「児童がコンピュータや情報通信ネットワークなどの情報手段に慣れ親しみ、適切に活用する学習活動を充実するとともに、〜(以下は中学と同文)」と記述されており、小・中・高校すべての校種について同趣旨の内容になっている。
 ここで注目して欲しい一つは、コンピュータや情報通信ネットワークなど、IT活用の目的が「学習活動の充実」にあることである。奇をてらうようなマニア的な活用への警鐘とも読み取れる。
 もう一つは、後半部分における「視聴覚教材や教育機器などの活用」の明記である。
 コンピュータや情報ネットワークだけに目を奪われていないだろうか。ITを生かすかどうかは、ほかのメディアの有効な活用ができるかどうかに掛かっていると言ってもよい。
 例えば、OHPやVTRをオールドメディア扱いするのではなく、現役として立派に利用したり、プリントなどのペーパー教材と組み合わせて活用するなど、パソコンは「ワン・オブ・ゼム」だとの考え方で取り組むのである。
 OHPやVTRなどの基本的なコミュニケーションメディアが活用できないで、パソコンの有効活用はとても望めないのではなかろうか。

4.学習する組織(Learning organization)を目指して
 
 校内研修は教師一人ひとりの職能を高める場でもある。
 このOJT研修では、必ず先生方による校内での研究授業を伴う。そのためには、周到に用意した授業計画(plan)、それに基づいた授業実践(doing)、そして検証する(seeing)という「PDSシステム」で進められる。
 校内の研究部会では、授業者と共同して討議を重ねながら指導計画(学習指導案)を作成する。「確かな学力」のためには欠如できない大切な研修である。
 作成された学習指導案を基に、各部会が連携し合って授業展開におけるメディア活用を検討する。ここでメディア研修を行った上で、実際の授業(研究授業)を行う。その結果について研究推進部を中心に全教員で検討する。その検証結果はすべての教師が共有する。
 このような一連の過程を通じて、個々人の「キャリア・アップ」を図るとともに、学校という組織自体が学習を重ねて成長することになる。そしてまた、同時に、学習する組織の成長が各個人の資質・能力の向上にフィードバックされるという循環関係が生まれる。
 学校には教育財産がないといわれる。授業研究の成果の積み上げがないのである。いつも一から研究のやり直しの連続である。それは循環関係が存在しないからである。これでは学校という学習する組織は成長しないし教師も育たない。
 OJT研修にPDSを導入すると、循環関係に極めて有効に作用し、組織対個人の相互フィードバックが活性化する。教師個々人のキャリア・アップと学習する組織の成長とが連鎖していく。そういう循環関係が生成されれば「確かな学力」も保障される。
 OJT研修を中核に据えた学習する組織の成長が、IT活用を確かなものにしていくだけでなく、授業改善や「確かな学力」向上の原動力になるのである。

もどる