毒蛇咬症の判別
北海道から九州にかけて8種類のヘビが生息しているが、毒蛇はマムシとヤマカガシ(北海道には
生息しない)のみである。しかし、実際にヘビをほとんど見たことがなければ、この2種類を判別
することさえ難しく、また、草むらなどで咬まれた時などはヘビを確認できないことも多い。
このような時は牙痕や症状から判別しなければならないが、まれに腫脹がわずかであるにも
かかわらず、咬傷後短時間で出血傾向の見られる重症マムシ咬症が、ヤマカガシ咬症と間違わ
れることがある。このような重症マムシ咬症は、その転帰がはやく、早急に適切な処置を行わな
ければ、死に至る危険性が高い。
○ヤマカガシ咬症: 毒の主な作用はプロトロンビンの活性化であり、その作用は強く、時には
測定限界以下までフィブリノーゲンが減少する。腫れや痛みはほとんどなく
数時間後から1日ほど経過した後出血傾向が現れる。毒の直接作用により
DICを引き起こし、さらに糸球体血栓により急性腎不全を起こす。
○マムシ咬症 : 一般には腫脹と疼痛が見られ、腫れの進行に伴って出血傾向や急性腎不
全を起こしてくる。しかし、稀に腫れがわずかで、咬傷後数時間で全身性の
出血が現れる症例がある。このような症例では急激に血小板が減少し、皮
下出血だけでなく激しい消化管出血を起こし危険な状態に陥る。
※ヤマカガシ咬症ではフィブリノーゲンの減少が主体であり、重症マムシ咬症では血小板の
減少が主体であるため、経時的に血液検査を行うことによって毒の注入の有無やヘビの
判別、重症化の診断が可能である。
ヤマカガシ咬症 |
重症マムシ咬症 |
||
腫 脹 |
− |
GradeT,U,V |
GradeW,X |
疼 痛 出血傾向 凝固系など 血圧低下 尿 その他 死亡まで |
− +++ (歯肉、注射痕、 出血斑、消化管) フィブリノーゲンが減少 血小板は後で減少 線溶活性が亢進 − ヘモグロビン尿 一過性の激しい頭痛 DIC 急性腎不全 |
−〜+ +++ (注射痕、出血斑、 消化管) 血小板が数時間で 急激に減少 急 激 (受傷後数時間) ミオグロビン尿、 血尿 複視 呼吸不全、心不全 急性腎不全、(DIC) 多臓器不全 2 日 |
+++ −〜+++ (数日後血小板が 減少してから) 血小板が腫脹に 伴って徐々に減少 稀 (腫脹が進行後) ミオグロビン尿 血尿 複視 急性腎不全 呼吸不全 心不全 3日〜2週間 |
GradeT:受傷局所のみの腫脹 GradeU:手首または足首までの腫脹 GradeV:肘または膝関節までの腫脹 GradeW:一肢全体に及ぶ腫脹 GradeX:一肢を越える腫脹 または全身症状を伴うもの |
※しかし、腫れの進行する速さは、症例によりかなり異なり、
数時間で腕全体に腫れが広がるものから、48時間近く
かかるものまでかなり差があるので、咬傷後すぐには
重症化するかどうかを判断するのが難しい場合もある。