友人とのきままな旅ほど楽しいものはありません。この時もぶらりと飛騨の高山へと来てしまいました。宿で友人は「高山でも朝市をやっているらしいど。そこで蜜りんごを買って食べようぜ」と言いました。
私は蜜りんごとは何か、全然知りませんでした。しかし、聞くと「そんな事知らないんけ」と言われるのが恐ろしくて聞けません。昔の私は妙な処に自尊心を持っていたのかも知れません。たぶん、蜂蜜にりんごをつけたものだと想像していました。
友人は「これが蜜りんごかな」とおばさんに聞いて、一番大きそうなのを一個買いました。私はそれを見ていて「なんだ普通のりんごかな」と思いました。
食べてみて、初めて蜜りんごの意味がわかりました。りんごの一欠けらを口の中に放り込む時、二十年前のこの時の事が思い出されます。
りんご……中央アジア原産、寒地に適する。果実は円形、夏・秋に熟し、味は甘酸っぱく、食用。品種が多く、わが国では最も多く生産される果物。