[Image]  5.大 根

 いつも不思議に思うのですが、刺身の下には必ずと言って良い程、大根の千切りがあります。刺身を皿に乗せただけのと、大根の上に乗せたのを比べてみると良くわかるのですが、大根の上に乗せた刺身の方が何倍も何十倍も輝いて見えるのです。私は大根と刺身の組み合わせを考えついた人は、正に天才だと思っています。
 刺身の赤に大根の白、これこそ“目で食べる”と呼ばれる日本料理の原点を見るような気がします。しかし、大根は主役ではありません。あくまでも脇役にしか過ぎないのです。にもかかわらず重量級の重みを感じます。
 刺身を摘みにビールを飲む事は、人生の楽しみの一つです。ほとんどの場合、酔いが回る頃には刺身は無くなり、後には大根だけが残されます。しかたなく、大根の千切りを箸で摘み、少量の醤油を付けて口の中に運びます。すると生の大根の味が引き出され、刺身とはまた異なった味覚を感じる事ができます。ここまで考えて、昔の人は刺身と大根を組み合わせたのに違いありません。ただただその知恵には驚くばかりです。

 大根……アブラナ科の一年草または越年性草。原産は地中海地方とされ、古く中国大陸を経てわが国に伝わった。品種が多く、根も葉も食用となる。