41.ジェット旅客機


 読売新聞社 編
 読売新聞社 刊

 地球は狭くなった、と言われています。狭くした最も大きな要因は通信技術の発達と、そしてジェット旅客機の増大であろうと思っています。たまにはジェット旅客機に関する書籍を読み、ハイテク技術や巨大技術の一端に触れてみてはいかがでしょうか。
 ジェットライナーの先駆けとなったのは、イギリスで生産されたコメットです。しかし、イタリア上空で謎の空中爆発を起こしてしまいました。その後、長期間にわたる徹底的な事故調査により、胴体の疲労破壊と言う原因が解明されたのです。これを契機として、金属疲労についての技術が急速に進歩したと、私はどこかで読んだことがあります。また、日航ジャンボの事故も圧力隔壁の金属疲労が原因でしたから、この専門用語も有名になりました。
 ジャンボジェット機の心臓部、ジェットエンジン。このエンジン一台の値段が約十一億円。一機で四台使っていますから、エンジンだけで四十四億円にもなります。重量で見るとグラムあたり270円から280円となり、銀の値段・グラム当たり37円の八倍近くなります。なんと、重量あたりですと自動車の180倍にもなるので驚きです。ハイテクの塊のような機械、かつ何百人もの人命をあずける機器ですから、高価でもやむを得ないのでしょうか。
 世界で最も長い歴史を持つ航空雑誌である英国「フライト」誌の編集長R・M・ラムスデンは、かつて発行したコンコルド特集号の中で「超音速旅客機を生み出すのは、人間を月に送るのに匹敵する技術的挑戦である」、と書きました。そして「おそらく(その開発は月旅行より)いくらか有益であろう」、と付け加えています。しかし、技術的には成功でしたが、商業的には全くの失敗であったのは残念なことです。
 最後に、ジェットエンジンで扇風機の羽根のようなものを回す″高速ターボプロップファン″が低燃費を目的として開発中である事を付け加えて、本書の紹介を終わります。(1993/05)


 42.これがPKOだ

 森 英樹 著
 岩波ジュニア新書 刊

 この本は中・高校生用に書かれました。にもかかわらず、大人が読んでも感動的な本です。「大人が読んでも無意味な本は、子どもにとっても無価値だ」と言われていますが、本当だと思います。
 いろいろな面で考えさせられました。それは本の中身とは一見別ですが、次のような事です。私がいままでに出会った人々、そう多くはありませんが、その出会った人々には尊敬できる人もいますし、反対にできない人もいました。では尊敬できる人はどの様な人であったかといいますと、それは社会的な地位や、学歴や男とか女とか、または年齢などとはほとんど無関係でした。
 これ等の事は別の疑問となって私自身にはね返って来ます。それは学校で立派な人格を育てる事が出来ないのなら、“いったい教育とは何なのか”などです。これの私自身の答えとして、教育とは知識を効率よく学ぶ所であり、“知識の量と人格とは全く無関係”だと言うのが悩んだ末に達した結論の一つです。
 今回は書評でありながら、内容には触れません。あまりにも問題が重大だと言う事もありますし、私の筆力では十分に内容を伝えられないと思うからです。賛成だ反対だと決めつける前に、どのような状態であるかを知るのは重要であると感じるからです。
 皆さんには、借りて読むのではなく、買ってぜひ読んで頂きたいと思っています。もし、本屋さんに無ければ注文してでも読んでみて下さい。(1993/06)


 43.報道カメラマン

 石川文洋 著
 朝日文庫 刊

 石川文洋。彼は「ベトナム戦争を最も長期間、そして最も危険な場所を渡り歩き、そして死ななかった男」と言われています。当時の佐藤政権がベトナム戦争支持であったにもかかわらず、日本国内で反戦運動が盛んだったのも、彼や戦死した沢田教一カメラマンの写真が大きな影響を与えたようです。その彼が、妻・息子をそして自分自身の生き方を語ったのが本書です。
 本書は文庫本でありながら、1000ページを超える大書です。しかし、厚い本でありながら一気に読んでしまいました。それはたぶん、文章の中に彼の純朴な人柄が出ていたからだと思われます。彼の思想は沖縄人ということを抜きにしては語れません。彼自身「自分は日本人である前に沖縄人である」、と語っています。
 彼は沖縄の悲劇を、ある女性を通して次のように語っています。あの沖縄戦、それは敵(アメリカ兵)によって殺された悲しさでは無いようです。「父や子や老いた両親を、夫は妻を、母は子というように殺し合う。カマや包丁などの刃物で、ノドや動脈を切り、胸を刺す。・・・・・子どもを岩にたたきつける。・・・・・敵にやられるよりは、せめて自分の手で殺したいと考えての行動である」。
 そして現在。ある二十三歳の女性がアメリカ兵によって殺されました。犯人が解っているにもかかわらず、軍事法廷では無罪。つい最近アメリカで起きた服部君射殺事件を思い出させます。この女性の父親からは、無念さが強く感じられます。石川文洋彼自身の怒りが、ファインダーを通してフィルムの焼き付けられるのではないでしょうか。
 彼は「撮る人の人生観が写真に表れる」、と語っています。そうかも知れません。戦場で戦っている、“一見かっこいい”と思われる写真だけを撮るのも、身体の半分が吹き飛んだ死体を撮り、悲惨さを訴えるのも、撮る人の人生観によるものだと思うからです。(1993/07)


 44.現代社会100面相

 鎌田 慧 著
 岩波ジュニア新書 刊

 毎日の生活に追われていますと、身の回りで起きている事しか考えられなくなってしまいます。そんな毎日の中でも、ふと立ち止まって周りのことや世の中のことを学ぶのは、とても大切であると感じています。本書は中高校生を対象に書かれた本ですが、とても分かりやすく、大人が読んでも感動的な本です。
 新聞を読んだりニュースを聞いたりして、問題になっているのは知っていても、それが“何故問題なのか”を、ほとんど解説してはくれません。それ等の疑問のいくつかに答えてくれるのが本書です。
 例えば「指紋押捺拒否」がテレビなどで報じられても、どうしてこの事が大きく報道されるのかを理解している人は、いったい日本国民の何パーセントいるでしょうか。私はある人から指紋押捺拒否に対して「何がそんなにいやなんだい」、と言う言葉を聞きました。たぶん、指紋押捺拒否を義務づけられている人々の真の気持ちを分かる人は、五十パーセントを超えないのではないでしょうか。
 筆者は“まえがき”の中で次ぎの様に語っています。「わたしは『学ぶ』ということは、人間や社会にたいしての関心を深め、ひとの役に立つことをめざすことだと思っています」。私もこの通りだと思っています。しかし、現実はどうでしょうか。私たちをとりまく環境は決してこの様にはなっておらず、むしろ逆の方向に進みゆくようです。本書は「教科書検定」、「臨調」、「偏差値」、「管理教育」、「障害児の就学」などを読みますと、非常に暗い気持ちになってきます。
 兵器の輸出入の項目には、一機570億円もする早期空中警戒管制機を四機も購入する話があります。輸出元のアメリカの軍事専門家でさえ、日本が何につかうのか、クビをかしげるほどのムダな兵器だそうです。こんな事がまかり通っている日本、大きな矛盾をかかえている現代の日本。真の日本の姿を知るのは意味のある事ではないでしょうか。それには本書が適していると思います。(1993/08)


 45.日本官僚白書

 佐高 信 著
 講談社文庫 刊

 キャリア組と呼ばれる高級官僚。皆さんはほとんど付き合いがないでしょう。よく、「日本の官僚は優秀だ」「ここまで経済大国になることができたのも、彼らの力によるところが大きい」などと言われています。また、「高級官僚で尊敬すべき人はほとんどいない。良くても普通人と同程度だ」と、どこかで読んだこともあります。では官僚の実体はどんなでしょうか。これに鋭く迫ったのが本書です。
 筆者は元官僚、庭山慶一郎の言葉を借りて次ぎの様に語っています。「国民のためにある役所なのに、役所のための役所みたいになっている所が多い。………自分の部署、部局の役に立たないことは、たとえそれが国民全体のためになることでも絶対にやらない。………役人は世の中のことがわかっていない。要するに、世間知らずなんです」。
 私にはこの″世間知らず″が年を追って助長されるようで怖い気がします。それはキャリア組のほとんどが東大をはじめとする有名大学出身で、それらの大学に入学するためには今や幼稚園から猛勉強しなければならないのです。大学に入るまで受験勉強に有利なことしかやらず、官僚になってからは、そんな人たちが強大な権力を持つことになります。このような人たちに支配される日本。そして本書を読んでいますと、「自分の出世を第一」に考えず、国民の方を向いて仕事をしている官僚は、ほとんど皆無のようです。
 ゼリア新薬の丸山ワクチン問題と厚生省の対応、黒ネコヤマトと運輸省の戦いを読みますと、何のために各省庁が存在するのかが分からなくなります。また大蔵省や運輸省からの大量の天下りと、我々庶民からは考えられない程の退職金。そして、政治との癒着と許認可をめぐる汚職の数々。
 最後に元総理・田中角栄の言葉を紹介しておきます。「………役人というやつは、要するに、エライ地位につきたい動物なんだ。自分のことを考えんで、日本全体のことを考えるやつなんて、本省の課長までさ」。(1993/09)