[Image]  12.ナマズ

 物心ついた頃、親父の実家である葛生の家へ行った時の事です。たらいの中に口の大きな、ヒゲが生えている異様な生き物がいました。体長は三十センチ位だったでしょうか。それがナマズでした。
 家からすぐの橋の下、つまり鐙塚橋の下の一部に泥深い所がありました。そこで小さなナマズを捕った事があります。食用蛙のオタマジャクシとほとんど同じくらいの大きさです。形も同じ様だったと思います。しかし、はっきりと異なっている所は口のまわりにヒゲが生えている事です。
 そのナマズを家に帰ってから、他の魚といっしょに、おばちゃんに煮てもらいました。小さかった為、ほとんど肉は無かったように思います。色は白く、味はサッパリしていたと記憶しています。
 今思い出してみますと、何しろ二十数年前のことですから、本当はオタマジャクシをナマズと間違って食べてしまったのではないかと思う時があります。もしそうだとしても、食用蛙の子だから良しと思っていますが。
 幼かった頃の思い出は、自分の事でありながら、実際に経験した事と空想した事とが、ほとんど差がなくなってしまう様です。

 昔からナマズは地震を予知する能力があると言われてきました。私はもちろんそんな事は信じていませんでした。それは言い伝えや、伝承のおとぎ話の中の世界だけだと思っていました。ところが最近、気象庁や動物学者の中にも、まんざら嘘ではなく本当に予知能力があるのではないかと考え、研究を始めた所もあるそうです。
 地震が起こる少し前に、地球の地殻が弱い電波を出す事が近頃の研究でわかってきました。震源地が海底の場合、その電波は海水に吸収されてしまいますが、陸地の下にある場合はレーダーで捕らえる事が可能なのだそうです。
 ナマズ達はその弱い電波を体に感じ、異常な行動をとる事は十分に考えられます。もし、これが本当なら先人達の鋭い観察力には恐れ入るばかりです。

 ナマズ=流れのゆるやかな川や湖沼の砂泥底に住み、水面の水草の茂った所に多い。貪食性で、カエルや小魚などを食べる。