ハヤ、メダカの次くらいに良く捕れた魚、それがビヤクです。外観はハヤよりも銀色に輝き、はるかに美しい(婚姻色のため)魚です。
四ツ手網で捕らえた魚は全てバケツに少しの水を入れてその中に入れるのですが、最も弱い魚それがビヤクでした。バケツの中に入れるとすぐに死んでしまい、白い腹を見せて横たわってしまいます。
すぐに死んでしまう原因は、人間の手の油でしょうか、それともバケツの中の温度か、バケツの中の水に流れがないからでしょう。しかし、子供心にも「人間に捕まった事によって自らの命を絶つ」掟がこの魚に存在している様な気持ちを感じたのを覚えています。この魚のとりわけ美しい姿が、こんな思いを感じさせたのかも知れません。
バケツの中の弱ったビヤクを川の中に戻して元気にした事もあります。弱り切っていますから逃げてしまわないのです。そして再びバケツの中に入れるのですが、やはり死んでしまいます。この魚には強い誇りがあるのかも知れません。
夕暮れにはビヤクらしい魚がたくさん水面から飛び跳ねています。昔は何故だか知りませんでした。しかしつい最近、それは水面近くを飛んでいる虫達を食べるのだと言う事を、どこかの本で読みました。どうもそれが本当らしいのですが、夕方、薄暗くなりかけ家路に向かう頃に飛び跳ねるものですから、小学生だった私たちはバカにされた様に感じたものです。
手元にある、「原色日本淡水魚類図鑑」と「野外観察図鑑・魚」を見ましたが、ビヤクと言う魚は見あたりません。安蘇郡と佐野市の教育会で出している「安蘇の自然」の中にはビャクと呼ばれている魚はいます。しかし、このビャクは私たちが呼んでいたビヤクとは異なった魚であるようです。では、ビヤクとは一般に何と呼ばれている魚なのでしょうか。写真と二十数年前の記憶と淡水水族館で見た魚とを照合してみますと、どうも「オイカワ」と世間では呼ばれている魚だと思います。またこの地方名のビヤクが、どの位の範囲で使われていたのか全く知りません。そして今ではこの地方名は死語になってしまっているようです。
オイカワ=水の清い流水に住み、中層を泳ぐが、しばしば水面に出て餌をとる。昆虫を好む。盛夏には不味であるが、その他の季節にはやや美味である。