[Image]  6.エビガニ

 殿様蛙を捕まえ、地面にたたきつけて殺します。たたきつけかたが弱いと浮き袋が破裂せず、水に入れた時に浮いてしまいます。そして足の親指から皮をはいでいきます。それを糸の先にくくりつけて水の中にたらしておくのです。すると面白いほどエビガニが釣れました。
 また、えさはエビガニ自身の尾の肉の部分(実際は腹にあたるらしい)を使った事もあります。共食いですが、これも良く釣れました。このようなどん欲な食欲が、アメリカから輸入されまたたく間に日本全土に広がった要因なのでしょう。
 町の子はえさにスルメを使っていました。しかし、私たちはスルメをほとんど使った覚えはありません。身近に手に入る蛙で釣れると言う事もありますが、村の子は村の子なりに、自分達のやり方に強い自信と誇りを持っていたようです。
 えさであった蛙はエビガニを何匹も釣ると内蔵も食われ、最後には骨だけになってしまいます。その骨は糸のように細いのです。その時は不思議と残酷さは全く感じず、今から思うとほんとうに自然と一体となっていた様に思います。
 エビガニは普通赤いのですが、たまには白くぶよぶよしたのを捕る事がありました。今から思うと脱皮したばかりのエビガニだったかも知れませんが、それを「とうふ」と呼んでいました。なにしろ「とうふ」は内蔵が透けて見えるくらい白く、しかもやわらかいのです。
 また、腹に子供をいっぱい貼り付けているのを、捕る事もあります。まるまった腹を広げて見ると、毛みたいなものが動いているのです。良く見るとちっちゃな子供達がたくさんいるのです。
 ある時、バケツ二杯くらい釣ってきました。その腹を取り去り、皮をむきフライパンでいためてもらいました。バケツ二杯もあったものが、ほんのわずかになってしまいます。味は騒ぐほど美味と言う訳ではありませんが、海のエビやカニ類とほとんど同じです。
 寄生虫がいて食べない方が良いと聞かされたのは、ずっと後の事でした。

 エビガニ=正式名称はアメリカざりがに。淡水に住むエビ。アメリカのロッキー山脈の東に分布していたのが輸入され、日本全土に広がる。体長十センチくらい。赤黒または土色で、水田、川、沼などに穴を掘って住んでいる。