開演の挨拶
こんにちは。本日は、大変お忙しい中をお越しいただきまして、誠にありがとうございます。
今からもう30年程前になるでしょうか。戯曲・夕鶴の描く世界を音楽化することに情熱を注いできた作曲家に團伊玖磨氏がいます。アサヒグラフに36年にも渡り「パイプのけむり」と言うエッセーを連載していましたから、この中にも知っている方もいらっしゃると思います。
この「パイプのけむり」を読んでいましたら、「レコード盤、あんなプラスチックの板なんて音楽じゃないよ」と言う一文に出会いました。その文章を読んだ時に、言っていることが全く理解できませんでした。だってそうでしょう。レコード盤、今ではCDかも知れませんが、レコード盤は最も良い条件の基で、一流の演奏家が演奏したものを録音したものだからです。それを音楽の専門家が「あんなものは音楽じゃない」と切り捨てているのです。しかし、この言葉はショックが大きかったせいか、ずっと私の頭の片隅に残りました。
では、本当の音楽とは何でしょうか。私はこう思うのです。ここに演奏家がいます。そしてその前にそれを聞くたくさんの人たちがいる。聞く人が1人と、今回みたいに何百人といる場合では、演奏家が受ける心理的影響が異なります。その影響の差は必ず演奏する音に違いが出てくるはずです。つまり音楽は演奏家だけが創り出すものでは無いのです。そしてもう一つ、文化会館と言う場と今と言う時間、つまり演奏家とそれを聞く人たち、それに場と時間の3つが一つになった時に本当の音楽が創られるのだと思います。
では、最後までゆっくりとご鑑賞ください。
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