ひしっクマのはなし
    

ちょっと昔。

雑木(ぞっき)の山々と桐生川(きりゅうがわ)に囲まれた菱の町に初めて学校ができたころのおはなしです。  

 

そのころ、ガッチン山の奥には二頭のクマがすんでいました。やさしくてちょっと心配性の母クマと好奇心旺盛でにんげんの子どもがだいすきな子クマです。子グマは、近頃、泉龍院(せんりゅういん)のあたりから子どもたちのたのしそうなこえやげんきなな歌がひびいてくるのが気になって気になってしかたありませんでした。いつか行って見てこようと思っていましたが、母クマはなかなか許してくれません。でも、子グマはすこしづつさんぽのはんいとじかんをのばしていって、母クマの目をぬすんで泉龍院のうえのほうから子どもたちの様子を見る日が続きました。

 

そこは、学校でした。

子どもたちがあそんでいる様子を見て、子どもたちがうたっているうたをきいて、子グマはなんてたのしそうなんだろう、ボクも一緒にうたいたい一緒にあそびたいとおもうようになりました。ちょうど運動会のまえだったのでお遊戯や行進やかけっこの練習をしていてるところでした。子グマは草のかげで小学生のこどもたちの様子を見ながら自分も一緒に身体を動かしてお遊戯や体操をすっかりおぼえてしまいました。子グマは自分自身も小学生の一員のきもちでいました。

 

そして、運動会当日

いつものようにいつものばしょで子グマは学校のようすを見ていましたが、万国旗がはってあったりきれいに白線が書いてあったりし子グマにも菱の町全体の華やいだようすが伝わってきました。観客の人たちもたくさんいました。子どもたちがはしってゴールするたびに歓声が上がります。

「よーいどん」のピストルの音におどろいていた子グマもいつのまにか夢中になって、お遊戯の時に音楽にあわせて校庭に出て行ってしまいました。でも、だれもおどろきません。 だってそのとき、子どもたちは全員が仮装をしていましたので。子グマは一緒になっておどりすっごくたのしい時間をすごし、ついつい整列の時にもならんでしまいました。

先生が子どもの人数を数えるとどうしても一人多いので、不思議におもって何度も数えなおしました。

すると、一年生の女の子が子グマに気づきました

この子、クマ〜」

まわりは一瞬こおりつきましたが、女の子が

「わあ〜。クマだクマ。ほんもののクマ」 といって子グマにちかづき、手を取りよろこびました。まわりにいた子どもたちもよってきてお遊戯のおどりりがじょうずったことや「前ならい」がしっかりできてるのをほめてくれたりしました。子グマ自身ビックリしましたが、まわりの雰囲気もいっきになごみました。

それから子グマは一緒になって運動会をたのしみ、先生達も子どもたちも、それから観客の人たちも子グマの姿をめずらしそうに、やさしく見守りました。

 

運動会のあと、子グマはほとんど毎日のように学校に遊びに行くようになりました。実は母クマも子グマの様子をずっと見ていて、運動会当日、思わず校庭に出て行ってしまったのは止められなかったけれど、そのあともにげんと一緒に運動会をたのしんでいたのをずっと見守っていたんです。

子グマは言葉はしゃべれなかったので子どもたちと教室で字の勉強をしました。

「人間(にんげん)につかまったら、皮を剥がされてクマ汁にして食べられてしまうのよ』

と普段から母クマに言われていましたが、

子グマは子どもたちと一緒に勉強して遊びました。

 

冬がちかづくと子グマはなんだかいつも眠たくて漢字のお勉強の時もついウトウトしてしまいます。先生のお話は子守歌のようです。(こういう子いるよネ)

そう、クマにとって大切な冬眠の季節が近づきました。

 

赤城山に雪が降る前に子グマは、山に帰りました。おぼえたばかりの字でこんな書き置きを残して。

 

「そつぎょうしきにはマにアうようにオきるよ。でも、ネボゥしちゃったらゴメンね。

 

それから、

菱っクマは小学校にずっと遊びに来ていて

にんげんの子ども達と仲良しです。

 

(注:ひしっクマ』は桐生市立菱小学校のイメージキャラクターです