■ワイパー部品の圧倒的な国内シェア
複雑な形状でもその寸法精度を保ち、しかも表面が滑らかで生産性の高い鋳造技術であるダイカストの用途は広く、特に自動車部品の多くがその方法で生産されている。
高崎ダイカスト工業社においても生産の8割を自動車部品が占めており、中でもワイパー部品は年間800万本の生産量を誇り、国内で生産される自動車の3割〜4割を占めるという。
一方、同社においてコンピュータが導入された時期は20年前と、早くから生産管理を始めとしたノウハウが蓄積されてきた。
国内の圧倒的シェアを誇る製品を有するパワーと、早くからITに取り組んできた姿勢は決して無関係ではないに違いない。
■ワークステーション導入への道のり
高崎ダイカスト工業社がコンピュータを導入したのは約20年前のことだという。
県内の中小企業では先駆けての導入であり、それを即業績に反映させるためというよりも、来るべき情報化社会に対応するための先行的な投資という色彩が強かった。
その中身は生産管理システムが主体で、売上処理、仕入処理のほかワープロ機能や図形描画機能等が付属機能として付加されていたが、導入の数年後に現在の担当者が入社した頃には「ワープロとしてしか使われていなかった(笑)」という。
そこで機能をフルに使う努力が行われたが、やがて同社の業務に合わせてシステムの変更等の必要が生じ、外部発注による仕様変更にコストをかけるよりも、新しいシステムの導入が選択された。
そこでUNIX環境のワークステーションを導入したのが約15年前、当時としてはかなり思い切った投資だった。
■全方向のシステムが物語ること
こうして高崎ダイカスト工業社において基幹システムが稼働し、生産管理を主体に本格的なシステム化が始まった。
設計段階おいて同システムはその後、生産品目や取引先の変化など外部環境の変動によって起こってきた現状とのミスマッチ、実際の業務とのかい離などシステム設計上の問題点、年数を経るうちにソフトウェアが徐々に古くなる等、細かな修正から基幹的な修正まで導入後もコストをかけた。
やがてシステム構築の主役はパソコンにとって代わり、今から5年程前にシステムのダウンサイジングが行われた。
これが同社で現在動いているシステムであり、そのシステムの評価を同社常務に聞くと、「正直な所、ちょっと欲張り過ぎたかなという反省点がありますね」と言う程、同システムは同社の業務をさまざま方向から分析し設計されたものだった。
基本的にはそれまでのワークステーションの機能を踏襲して設計されているが、さらにそれを発展させた非常にきめ細かな『理想的な』システムが追求されたのである。
例えば生産管理においては工程ごとに在庫をすべて把握でき、不良在庫の発生原因など品質管理までサポートできる機能も付加されている。
こうして同社におけるIT化の歴史から生み出されたシステムは、理想のシステムである筈だったのだが、「開発側の思惑はちょっと外れてしまった(笑)」と常務は言う。
つまりこのシステム自体は理想型に近い完成度をもっているのだが、そのポテンシャルを十分に引き出そうとすれば過度とも言えるデータ入力等が必要となり、生産管理に止まらず製造工程にまでかなり大きな負荷がかかることになる。
そのためフルスペックに近い高度なシステムの能力をすべて生かしきることはできていないが、このような試行錯誤は、決して無駄なことだと同社では考えていない。
■そして新たなシステムの模索が始まった
20年前、初めて生産管理システムを導入して以来、さまざまな点を改良しつつ同社の基幹システムは進化してきた。
しかし、その長い経験によって、システムを設計・運用するうえでの効用と問題点がはっきり掴めてきたことが最大の成果だという。
通常、基幹システムは社内や顧客の現状に合っているかどうかが最大のポイントと考えがちだが、同社では必ずしもそうは考えていない。
その他にポイントは二つあり、ひとつは進化したシステムを使いこなすためには、その環境を生かして少しでも効率的に仕事を進めようという社員の考え方が不可欠だという。
そしてもうひとつは、現状にシステムを合わせるばかりではなく、システムの優れた点を見過ごすことなく、人がシステムに合わせて変化していく姿勢が極めて大切だという。
このような整理・分析が、常務をはじめシステム担当スタッフによって行われた結果、この程新しい局面に対応する第4次のシステム化計画がいよいよスタートした。
その計画素案をつくるメンバーは広く社内の各部署から集められ、積極的に業務に関われる姿勢をもつ社員たちで構成されている。
長年のIT化を一歩ずつ着実に進めてきた同社だからこそ、次世代のITは、それ自体が大きな武器となるようなダイナミックなものになるに違いない。
|