MESSAGE

なつめ様より







 その日ゾロはいつものようにのんびりと甲板で昼寝をしていて、起きた時にはもう夕方になっていた。

「・・・・・・・・・」

 短い緑の髪が生えた頭をがしがし掻きながら起き上がる。

 奇妙な位の静けさに、辺りを見回した。

 いつもだったらルフィが子供みたいに飛び跳ねながら起こしにくるので、ほとんど眠れないというのに、今は恐い位

静かだ。どうやら船も無人に近い島に停船しているらしく、波の音以外は何も聞こえない。

「・・・・・・?」

 その異常とも言える環境を不思議に思い、立ち上がろうとした時、自分の手の下でかさっという音がした。見ると、

そこに一枚の紙が丁寧に折り畳んであった。

 手にして、開くと、そこには見覚えのある素っ気ない程すっきりした文字が並んでいた。AAAナミの字だった。

『剣豪サンへ。

誕生日おめでとう。

私達全員から最高のプレゼントを贈ります。

起きたらキッチンに行ってね。

                船員一同。』

 それを読んで初めて、ゾロは今日の日付に気が付いた。

 『1』の字が綺麗に並ぶ、11月11日。AAA紛れもなく、自分の誕生日だ。

 よく覚えていたな、と感心する。これだけ忙しいと、忘れてしまってもおかしくないようなものなのに。

「最高のプレゼント・・・ねェ。」

 ゾロはふっと笑ってから、立ち上がり、その太い首をこきこき言わせた。

 やれやれという表情をしながらも、その足はキッチンへ向かっていった。



 「・・・・・・・・・・・・・・は?」

 キッチンの扉を開けて、ゾロは呆然とした。

 そこには、この船のクルーは存在しなかった。ただ一人、船長ルフィを除いては。

 しかも、奇妙な事に、部屋中に奇妙な何かが焦げた匂いが漂い、まるで台風が荒らした後かという程、キッチンは

汚れた(割れた)食器や卵の殻、零れた調味料や飛び散った食材でぐちゃぐちゃだった。

 そんな中で、ルフィは唯一人椅子に座り、やはりこれもぐちゃぐちゃに汚されたテーブルの上に上体を突っ伏してい

る。

「・・・・・・・・・・ルフィ?」
 
 小さく、名前を呼んだ。返事は無く、いつもの五月蝿い位のいびきも無かった。

 ゾロは一瞬、ぞっとしてルフィに駆け寄った。その、海賊にしてそのやたらと華奢な肩を掴み、少し躊躇ってから、揺

すった。名前を呼んだ。

「・・・・・・ルフィ、寝てんのか?」

「・・・・・・・・・・」

「・・・・・・・ルフィ。」

「・・・・・ん〜・・・う〜・・・?」

 もぞもぞと、首が動いてルフィが意味不明に唸る。ゾロはほっとして、傍の椅子を引き寄せた。先客である小麦粉と

粉まみれになっている銀の量り(サンジの私物だ、これは。)をテーブルの上に乗せて、代わりに自分が腰掛けた。

「何でこんな所で寝てんだよ?みんなはどうした?」

「う〜・・・」

 ルフィが眠そうにごしごしと目を擦る。

「みんな・・・あー・・・街・・・いってくるって・・・いってたよーな・・・いってたよーな・・・・」

「あー・・・つまり言ってたんだな?」

 ルフィはこっくりと、首を縦に振った。それが、返答なのか、眠気によるものなのかは分からなかったが、面倒だった

のでゾロは両方正解であると判断した。あながち間違ってはいなかった。

「今日は・・・ゾロのなー・・・たんじょーびだから・・・みんな遊んでくるって・・・」

「・・・どういう理屈だよ。」

 言ってから、はっとした。自分を起こさずに行ったということは、ひょっとしたら、『プレゼント』なるものは『昼寝』だっ

たのかもしれない。けれど、『昼寝』がプレゼントなら、『キッチンに行け』などという言葉を残すだろうか?

 ルフィがまだ霞の取れない眼をゾロに向けた。その顔は粉まみれで髪まで一部白くなっており、仮眠(あるいは熟睡)

によって口の端から流れたヨダレのせいもあって、相当間抜けな顔になっていた。ゾロはぷっと噴き出して、左腕に結

んであったバンダナを解いた。

「で、おまえはここで何やってたんだよ?」

 くっくっと喉の奥で笑いながら、黒いバンダナで汚れた顔を拭いてやる。ふと気付くと、ルフィは顔だけではなく、その

手は勿論、赤いベストや、青いズボンまで、粉や染みでひどく汚れていた。

「んー・・・」

 ルフィは顔を拭いて貰いながらまたうとうとし始めている。鼻と口をいっぺんに拭いてやると、きゅっと目を閉じた。放

すとぷはっと息を吸い、しししっと独特のあの笑い方をした。

「ゾロの匂いがする。」

 ゾロは、ははっと笑い、バンダナをテーブルに置く。

「汗くせェだろ。」

「うん。」

 ルフィも笑いながら頷いた。それから、しばらく、沈黙が訪れた

 そして不意に。

「・・・・・・あーーーーーーっ、ゾロじゃねェかーーー!!!!」
 
 唐突に、ルフィが馬鹿でかい声を出した。ゾロは咄嗟に耳を塞いだが、その位では完全に遮断など出来るはずもな

く、頭にキィンと、その高めの声が響いた。

「何でここに居るんだ!?いつ起きたんだ!?」

 その目は、さっきまでとは違って大きく開き、黒い瞳には喜々とした光があった。どうやらさっきまでは、寝惚け半分

だったらしい。

「あー・・・さっき、な。おまえはここで何してた。」

 さっき言った質問をもう一度繰り返すと、ルフィは今度はぱっと無邪気に笑った。

「あのなっ、ちょっと待ってろよっ。」

 がたがたと慌しく、ルフィは椅子から立ち上がって、フリーザーへと駆け寄った。そこから何かを取り出して、また

戻ってきた。

「ほらっ、すげェだろゾ、ろぉっ!」

 ルフィが変な声を出して、突然前のめりになった。床に零れていた水か何かで、足を滑らしたらしかったが、ゾロに

そんな事を考えている暇などあるはずがない。考える前に、咄嗟に体を動かした。

「ルフィっ!!!」

 どさっ・・・ぐしゃっ。

 床に顔面を直撃する一瞬前に、ゾロはルフィを庇い抱きかかえる事が出来た。床に倒れた際、少し背中を打ちつけ

たが、まぁとにかく、今重要なのはそんな事ではない。

「っ・・・ルフィ、大丈夫か?」

 ゾロの胸板に顔を押し付けていたルフィは、むくっと顔を上げた。どうやら外傷は無いらしい。そりゃ、ゴムなのだか

ら多少床に倒れたぐらいでは傷など出来ないだろうが。ゾロはほっと息をつき、しかしその一瞬後、急にルフィの表情

が変わった事にぎょっとした。

「あああぁっ!!!」

 ルフィはゾロの上から飛び降りて、床に座り込んだ。意外にも、ルフィはそれきり黙り込んでいる。一体何だとゾロは

起き上がり、ルフィが見つめているものを覗き込む。

「・・・・・・・・・・」

 床に無残に落ちているのは、約20センチ四方の箱。さっきルフィが持っていたものらしく、転んだ拍子に投げ出され

たのか、かなり凹んでしまっている。

「ルフィ、これは・・・」

「・・・・・・・・・・」

 ルフィは黙ったまま、その箱を見つめている。ゾロが見ている方向からではうずくまっているルフィの表情までは見

えなかったが何故か肩がふるふると震えている。

 もしかして。もしかしなくても。

「・・・ぅっく・・・うっ・・・」

 やっぱり。

「オイ・・・・・・ルフィ、何泣いてんだよ。」

 もう訳が分からないが、とにかく、目の前で何故か泣いているらしい船長を放っておく事は、ゾロにはとても出来そう

になかった。

「っ・・・泣いて、ねェっ。」

「うそこけ。」

 苦笑して、ルフィの顔を覗き込める位置に座った。卵の殻が足の下で潰れたが、気にはしなかった。

 俯いているルフィの額に指先を押し付けて、ぐぐっと押して自分の方を向かせた。ぼろぼろと涙を流しているルフィ

は、まるで子供だ。

「ほら、泣いてんじゃねェか。」

 シャツの裾を引っ張って、ごしごしと顔を拭いてやった。さっきまでは小麦粉だらけだった顔が、今度は涙でくしゃっ

と歪んでいた。

「だってゾロっ・・・」

 ひっく、ひっく、と、ルフィは泣きじゃくる。白い頬に涙の筋が出来る様を見ていて、何だかゾロは落ち着かなくなって

きた。

「せっかくっ・・・おれっ・・・作ったのにっ・・・」

 ゾロははっとして床に落ちているベコベコになった箱を見た。

 そして周りを見回す。

 小麦粉AAA卵の殻AAA調味料AAA奇妙な、焦げ臭い匂いAAA。

 AAAまさか。

「ゾロとっ・・・ゾロとっ、食おうとっ・・・思っ、たのにっ・・・」

 ゾロの中で仮定が確信に変わった。そして、潰れた箱を手に取り、開けた。

 ふわんと漂う、自分というよりルフィの方が好きそうな甘い匂い。

 いびつな、けれど柔らかそうな黄色のスポンジに、崩れてしまった白い雪の様なクリーム。潰れてしまった愛らしい

苺。

 ゾロは再びルフィに視線を戻した。思いっきり顔をくしゃくしゃにして、まだその涙は止まらない。


 ゾロは決して想像力が豊かではない。けれど今だけは、はっきりと目に浮かんだ。

 小麦粉の量り方も、卵の割り方も、調味料の使い方も、オーブンの使い方も知らないルフィ。

 何度失敗しただろう?

 つまみ食いの誘惑も、きっとあった。

 完成した時、どんなに嬉しかったのだろう?

 ゾロは、箱の中のそれを、壊さない様にそっと、一口だけ取って、口に運んだ。

「AAA甘ェな。」

 え?と、ルフィが言って顔を上げるより前に。



 ゾロは潰れた苺を咥え、ルフィに口づけた。



 半分に噛み切った苺の片方を、ルフィの口内に押し込む。果実特有の甘酸っぱい風味と、ルフィの甘い口唇が交じ

り合って、それはひどく甘美なものになった。きっとこんなに美味いキスは、この世には存在しない。

「んっ・・・ぅ・・・」

 ちゅっ、とわざと音をさせて、口唇を離した。名残惜しくて、もう一度、小さくキスをして、すぐ離した。

 ルフィのとろんとした表情は、とんでもないくらい扇情的だ。

「AAAでも旨ェ。」

 にっと笑ってそう告げた。ルフィはぽけっとしたまま、ぼっと顔を赤くした。

「ぞ、ゾロ・・・何で・・・」

「おまえバカだな。食い物なんて、食っちまえば形分かんねェだろ。」

 悪戯をする様にそう言う。ルフィはぱちぱちと目を瞬かせた。

「おれは旨けりゃそれでいい。」

 手で千切って、ケーキを口に運ぶ。なかなかどうして、意外にも、本気で美味しかった。

「ルフィ、どうした?一緒に食うんだろ・・・っと。」

 自分が彼の方を見ると、ルフィが急に、ほとんど体当たりに近い状態でゾロの胸板に飛び込んで、ぎゅっと背中に

手を回してきた。そしてぽつりと、自分の名前を呼ぶルフィの声が聞こえた。

 ゾロは、その小さな背中に大きな手を回し、ちょっとだけ、微笑んだ。




 これは確かに、

 最高のプレゼントだ。




☆     ☆     ☆     ☆     ☆     ☆    ☆


 剣豪誕生日おめでとう!ヒューヒュー!(えっ)
 バースデーなSSです。ゾロルゾロルーヒューヒュー!(えっ)結構ギリギリで書きましたー。
 ありきたりなネタですんませんほんと。つかやだこんなのー。嫌いだー。
 自主的に書いたものですがHinataサンに謙譲させて戴きます、恥ずかしながらー、ひぃぃぃ。
 私信<ヒナター、ごめんよぅこんなヘボで;つか甘いー。ルフィヲトメー。死ぬー。
 やっぱり即効だとこの程度が限界でふげふげふ。
 いつかリベンジさせてくださいませ〜、いやマジで。
 これからもロロノアロロノアでふんがふんがいいながら頑張ろねー。(笑)
 はい私信終わり。
 今から即効でヒナタにメィルを送らなければっ。
 そんな訳で今回は短めに終了しますあとがき。
 読んでくださってありがとでしたっ。

2002.11.11.






以上、なつめさんよりMESSAGEでした。
なつめさん、本当に有難う御座いました。
ちゃんと剣豪の誕生日に頂いたのに私の仕事の都合で読む事さえ出来ませんでした。
本当にゴメンナサイでした。

いやいや、素敵文でしたわよ。
有難う御座いましたv
快く私の脅・・・うんっゲフン!!あーあーあー…
えー要望に応えて頂けてとても嬉しいですわ。
いや、本当に無理強いして申し訳ないです。はい。
もうしません。無理強い言って困らせたりしません。





・・・・多分。


もうルフィが可愛くて仕方ない!
何ですか!?なつめさんは私を殺す気ですか??
そして、首をゴキゴキ鳴らすゾロ・・・
鼻血でるよ!??本当に・・・
出血多量死寸前です。
はぁはあ・・・血が・・・・
足りない・・・

おう!これからもロロノアロロノアでふんがふんがいいながら頑張りましょう!!!(笑)
目指すはOP天国☆(多分これはヒナタの頭の中だけ)


なつめさん、本当に本当にっ!有難う御座いました。
またお願いしますねv




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