碧と蒼と暗い闇 sanji side
以前ゾロと信仰について話をしたことがある。
俺が生まれたノースブルーではその住民のほとんどは神とかそういったものを信じ、祭っていた。
俺も昔は信仰していたんだ…しかしあの時、無人島で餓死寸前になっていたあの時。
願っても願っても俺の祈りが天に届くことは無かった…
どうせ助けられるのならば、俺があの人の脚を喰らう前に助かれば良かった。
実際に喰らったのは俺ではないけど、俺が喰らったも同然だ。
こんな話をした俺にゾロは言った。
「助かっただけ良かったんじゃねぇか?」
なぜこの男はこんなにもプラス思考というか呑気なのだろうか…
まぁ、その考え方に救われた事も数知れないのだが・・
俺はそんな台詞を吐いたゾロに信者かと問うた。
俺の顔が場違いなほど真面目な物だった所為かゾロは笑いながら
「そんな訳あるか。馬鹿かテメェは…信者なら殺生はしねぇだろ?」
そんなゾロの穏やかな笑顔に煽られ俺も笑い出す。
が、消え入るような声で呟かれた言葉に笑止する。
「……神なんていねぇのさ」
ある朝目が覚めるとゾロと二人、弾薬庫に横になっていた。
もう日が高いことから自分が寝過ごしたことを悟ったサンジは慌てて飛び起きた。
「いてっ!」
が、途端腰を鋭い痛みが襲う。その痛みから昨晩のゾロとの情事が窺え顔を顰めた。
なんとか痛みを堪え甲板に出るとそこには既にチョッパーの姿があった。
彼はコックであるサンジの次に起きてくるこの船の優秀な船医だ。
「ようチョッパー、今日もご苦労なこったなぁ…」
そう声を掛け船医の小さな手には不釣合いな大きな分厚い本の中身を覗き見た。
「おはようサンジ。サンジこそいつも早起きで疲れないのか?」
寝不足にならないか?と尋ねられ、コックはそんなもんにはならねぇんだ。と軽く答えキッチンへと続く階段を上っていく。
どうやらいつもより起きるのが一時間も遅くなってしまった様で、後から起きてくる女性陣やルフィ達の事を考えると気が重い…
朝食を作り始めて暫く経った頃。外から大きな音がし、何かと思い外に出てみれば
ゾロが足を滑らせ階段から落ちたとの事だった。
その音に驚き目の覚めた他のメンバーも起きだして来た。
アイツは本当に余計なことばかりしてくれる…っと船医に看護を受けるゾロを睨み付け
サンジはキッチンに戻っていった。
この日は特に何も無くゾロは言うまでも無く昼寝、ウソップとルフィは船首で釣り、またルフィは懲りずにタワシで魚を釣ろうとしている、ナミとロビンは部屋で次の航路についての相談、サンジはレシピの整理。と其々自分の好きなことをやって一日を過ごしていた。
丁度サンジが夕食の準備を始めようと立ち上がった時、女部屋からナミとロビンが
出てきた。
「皆聞いて!明日の早朝に次の島に着くわ!!その島は大きな島だから各自買い足すものがあればリストを作ること!!」
そんなナミの声に元気に返事を返しキッチンで食材の残土チェック。
キッチンの窓から見える面々と言えば次の島を余程楽しみにしている様子で船首から微動だにしないルフィ。ウソップは男部屋に戻ったのだろう…姿が見当たらない。
ゾロは…何やらチョッパーと端の方で話をしている。何の話をしているのだろうか…
気になるがサンジが気にするような事では無いのは確かだ。
翌朝、ナミの言葉通りに新しい島に上陸した。
「良い?私とロビンは買出しに、トニー君は医薬品の、サンジ君は食材の調達、ゾロはルフィのおもり、ウソップは船番。用事が済んだ人から船に戻ってウソップと交換。
それと今夜は近くの宿を取ってそこに泊まろうかと考えてるわ。宿は私とロビンで探すから取り敢えず、用がせ済み次第ここに集合!!」
ナミの指示が終わると言われた通りに動き出すメンバー。
ナミ達の姿が見えなくなった頃、チョッパーはサンジに言った。
「サンジ!あ、あのな…俺ちょっとゾロと出かけたい用があるからゾロの代わりにルフィの面倒見ててくれないか??2時間位で帰ってこれると思うんだけど…」
「あ?ゾロと?…良いぜ。行ってこいよ、じやあ俺はルフィと食材探しだ」
その時のサンジはルフィと食材の仕入れなんて疲れそうだ…だの、何故最近ゾロとチョッパーは妙に仲がいいのだろう…だとか考える事がたくさんあって、戸惑いながらもルフィに訳を話して食材探しに出かけた。
ルフィとサンジが船に帰ってきた時には既にもうメンバー全員がそろっていた。
ただでさえ時間の掛かる買出しをルフィと一緒にするなど到底不可能に近かったのだが、コックの強みを使って何とかやっとというか…まぁつまりは食事を抜きにするぞと言う脅しである。
先ほど今晩の宿の部屋割りがナミから発表された。
ルフィとウソップ、チョッパー。ゾロとサンジ、そしてナミとロビンである。
宿へ向かう道でもゾロに寄り添って歩くチョッパーに嫉妬心さえ覚えてくる。
『あーあー…手なんか繋いじゃって』
そんなチョッパー達を見、無意識のうちに不機嫌になって行く自分を自覚する。
この苛立ちをどうにかしたくて、何処かで一杯飲むか…と考えウソップに声を掛け、その列を抜けた。
バーから帰り宿に着くと同室の筈のゾロの姿が見当たらない。
トイレかと思い暫く待機していたが、これはどうにも遅すぎる…
はっ!っとあることに気がつきルフィ達の部屋を訪れた。
ルフィとウソップは昼間はしゃぎすぎた所為か鼾をかいて寝ている。
…そこにチョッパーの姿はない。
ちっ、アイツ等しけ込みやがったな!!
そう思うがいなやサンジは宿の外へと駆け出していた。
畜生!! 何でチョッパーなんだよ!アイツは獣なんだぜ!?
それに絶対俺のほうがテクニシャンだって!!それか…あれか?
ゾロはそういうのが好きなのか!??
マニアなのか!?????
もうサンジの頭の中は大パニックである。
そんな事を考えながらメリー号の方へ走っていくと向こうから泣きながら小さな船医がやってくる。
乱れた息を整えのがらサンジはチョッパーに話しかける。
「お…おい、どうしたってんだよ…」
「…ゾ、ゾロが…」
「何?ゾロがどうしたんだよ」
問うても何も答えないチョッパーを取り敢えず宿の前まで連れて行き、再びメリー号へと向かう。
メリー号についたサンジが見たものはいつもの様に鉄棒で素振りをするゾロの姿だった。
チョッパーの同様振りにかなり心配とていたサンジだったがゾロのその姿を見ると
とても気が安らいだ。
「誰だ…」
俺の気配を感じ取ったのかゾロが警戒した声を立てる。
「あぁ…俺だ」
「何だ…サンジか」
「何だってこたぁねぇだろうが!!」
平気だ…いつものゾロだ。
「何の用だ?」
サンジに用件を尋ねるゾロはそれでも素振りを止めない。
「用って用はねぇが、お前とチョッパーの姿が見当たらなかったから心配してな」
とそんなゾロに答えるとゾロは素振りを止め、目を瞑りサンジの方を振り返る。
最近ゾロは自分の方を向くときには必ずと言って良いほどこの行動をおこす。
変な癖…
そんな事を思いながらもその碧色の目を自分に向けられるだけでサンジは自分の鼓動が高まることに気づき苦笑する。
こいつがこんなに綺麗な目をしている事に気づいたのはつい最近。
たしか、キスをしていて気づいたんだ…その時の衝撃は今でも忘れられない。
あまりの驚きに不躾だと思いつつも
『お前の目って碧色してるんだな…』
と尋ねてしまったサンジに対しゾロは
『まあな…』
と素っ気無く返事した。
そんな事をただ呆然と思い出していたサンジにゾロは、
「何か作ってくれ」
と言いサンジの後についてキッチンへ向かう。
一通りの摘みを胃袋に収めた頃にはもう日が昇り始めていた。
翌朝、チョッパーはまた一人で泣いていた。
しかしいくらサンジが理由を聞いても教えてはくれない…
そんな時は決まってゾロがチョッパーの所に駆けつける。
胸が痛んだ…自分が訳を尋ねても答えないチョッパーも、そんなチョッパーの所に直ぐに駆けつけるゾロも気に食わない。
数日後、チョッパーがナミと何やら交渉していた。
先日の島で揃わなかった薬品があり、次の島でその薬の元となる植物が生産されている事からその島に薬品がある事を期待するのは当然である。
ナミは小さな船医の申し出に黙って頷き、島への上陸を許可した。
一週間程しその島に上陸した。
チョッパーは荷物持ちに、とゾロを連れて行った。
それから5時間程経過した頃だろうか、やっと二人が帰ってきた。
またもやチョッパーは泣いている。
何故こんなにも泣くのだろうか、それを自分には教えてくれないのだから対策もとれない。
その晩、サンジはゾロとキッチンで酒盛りをしていた。
サンジはずっと気がかりだったことを口に出した。
「おい、お前は知ってんだろ?」
「あぁ?何をだよ」
「あいつが、チョッパーが泣く理由だよ」
「…俺が知ってる訳ないだろ?」
「……そうか、それなら良いが、最近お前も何か変だからよ、ちょっと心配してたんだ」
「…変?」
「ああ、先ず…俺を抱こうとしねぇだろ?」
言い終わるか否やの所で二人は笑い出した。
「おいおい…何だよそりゃあ」
あきれ笑いのゾロに対し、ゾロと居る事が楽しくて仕方がない様子のサンジ。
「なぁ…抱いてくれよゾロ」
「…ったく、お前は本当に万年発情期だな」
言うとゾロは床にサンジを押し倒した。
ゾロはただ静かに愛しいサンジの体を愛撫でしていく。
滑らせた手が、サンジの敏感な部分に当たるとサンジは甘い声を立てる。
そこは綺麗な桜色で更にゾロの欲を駆り立てる。
「ん…はぁっ」
ゾロはその桜色を一方は手で、もう一方は舌で弄る。
「ゾ…ロぉ…」
時折切なそうなサンジの声が上がるがそれも気にせず、サンジの感じる所を確実に攻め続ける。
サンジは目を閉じ必死に射精感に堪えている。
「おい、ここだけでもうこんなかよ」
「うっ…るせ…あっくぅっ」
ゾロがサンジに手を触れた瞬間、サンジから勢いよく白い液体が飛び出しゾロの手とサンジの腹を汚した。
意識が朦朧としているサンジを余所にゾロはサンジの精液で濡れそぼった後ろに手を伸ばすと躊躇うことなく指を挿入させた。
サンジは小さく身体を震わせるとその部分を襲う圧迫感を必死に耐えていた。
サンジがやっと慣れたところでゾロはその熱い杭をサンジの中に沈めていく。
「あっ…ぁぁくっ」
痛みと快感に耐えながらもゾロにそっと口付けサンジは小さな消え入るような声で呟く。
「…ゾ…ロ、愛してるぅ…」
瞬間ゾロの目から涙が溢れた。
いや、実際はゾロの身体は余す所無く濡れていた為、それが汗なのか涙なのかは不明だが、
少なくともサンジにはそれはゾロの流した涙に見えたのだ。
「…ゾロ、俺もう…あっああっ!!」
再度果てたサンジの中にゾロも欲望を吐き出した。
翌朝もやはり船医はその大きな瞳に涙をいっぱいに溜め、一人居た。
流石のサンジも痺れをきらし罵声に近い声で尋ねた。
「一体どうしたってんだよ!!お前絶対最近おかしいぞ!?」
するとチョッパーはしぶしぶと言った感じにサンジに今まで一人で泣いていた訳を話しだす。
「ぐすっ…ゾ、ロが…」
「あ?だから、アイツがどうしたって?苛められたのか?」
チョッパーは静かに首を横に振り、続きを話し出す。
「ゾロは……緑内障だ」
「何だ。そんな事かよ。緑内障ってあれだろ?白内障みたいなヤツ…治るんだからそんな心配すんなよ」
サンジがチョッパーを安心させようと気を使って言った台詞にも再びチョッパーは首を横に振った。
「緑内障は白内障とは全然違う病気で。目の中にある栄養を運ぶ液体が排水されにくい状態や排水されない状態になって、目の中の圧力も上がって、目の機能が落ちる病気なんだ。たしかにサンジの言った通り早期の発見なら薬で治療する事も可能だけど…」
「けど?」
その続きが気になりサンジが問い正す。
「ゾロはもう手遅れだ…既にほとんどの視力は無い。じきに失明してしまうよ」
「…えっだって、片方が駄目ならもう片方が…」
サンジのいっぱいいっぱいの脳でやっと考え出された案だったがチョッパーの言葉によってその案は脆くも直ぐに打ち砕かれる。
「ゾロはもう幼い頃に右目の視力をなくしてるんだ…だから左の視力を失ったら…」
「…完全に失明…って訳か…」
チョッパーの言いたい事を悟りサンジはチョッパーを先導し、最悪な言葉を口にした。
チョッパーとの会話を終えた後、サンジはゾロの寝る甲板へと足を進めた。
そこにはいつもの通り、日向で気持ちよさそうに眠るゾロの姿があった。
気持ち良さそうに寝ているゾロを起こすのは気が引けたが思い切ってゾロを起こす。
「あ゛ぁ?何だよ人が気持ちよく寝てるってーのに…」
文句を言いつつもゾロはサンジの方を向き座りなおす。
「ゾロ…お前、緑内障だって本当か?」
チョッパーのたちの悪い嘘であってほしい…
そうサンジは願っていたが、ゾロの口から出された答えは自分は緑内障だ。という内容で、
サンジは自分でも自然と表情が強張っていくのが分かった。
「とうとうチョッパーも言っちまったのか…」
「…いつ、いつから気づいて…た?」
声にならない声を必死に絞り出しゾロに問う。
「いつからだろうな…そんなのは当に忘れちまったよ」
「なんで…何で俺に言わなかったんだよ!!」
そう叫んだサンジの顔は既に涙でいっぱいで…
「言ったらお前は俺を哀れみの目で見ただろう?下手に優しくされたら気持ち悪いしな」
それとも俺が失明すると言ってもお前はそういう目で見なかったのか?
と尋ねられサンジは言う言葉が見当たらない。
「だろ?だからだよ」
返答がないサンジに続けてゾロは言う。
「もう自分の手には負えないと気づいたんだろう。チョッパーが次の島に有名な眼科医がいるからって…」
「それで前の島は二人で出かけた訳か…」
「ああ…。でも、もう手遅れでその医者にも出来ることはねぇとさ」
「そうか…」
「悪かったな黙ってて…」
「いーや。もう気にしてねぇよ」
サンジは出来る限りの笑顔でゾロに答える。
「盲目な剣士なんて使い物になるのかねぇ…」
弱気にもそんな事を呟いたゾロにサンジは言う。
「なに言ってんだよ。お前らしくねぇ…」
「そうだな、今から鍛えれば何とかなるかもしれねぇからな」
そう言い立ち上がったゾロは腰に下がった刀を鞘から抜くとそれをかざ翳して見せた。
が…
「おい!!ゾロお前まさかもう…」
翳した切っ先がマストに触れたことからサンジはゾロの今の状態を理解した。
「…ああ、完全に視力は無い」
視力を完全無くし飾りにしかならなくなった目を手で覆うとゾロは軽く言い捨てた。
続けてゾロはサンジに語りかける。
「でも忘れるな…俺が最後に見たのはお前の蒼い目だった…」
それがまるでとても誇らしい事のかの様にゾロは微笑む。
そのゾロの笑顔を見て、思わず抱きしめたサンジの頬には幾つもの涙の跡が日に照らされ、きらきらと輝いていた。

FIN
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コメントする言葉も見当たりません…
いきなりエロといえないエロ、そして暗い話で申し訳ありません。
これは近々にゾロヴァージョンもできると思われます…
でもヒナタは割りと暗めの話は好きです。
読むのも書くのも。
だからこれも書いていて凄く楽しかったんです。
製作時間はネタを考え付いて直ぐに始めたので少ないです。
そして、挿絵はカイト様に描いて頂きました。
有難う御座います。
しかし、自分の書いた文に人様に絵をつけてもらうのは恥ずかしいものがあります…。
とにかく、素晴らしいイラストを有難う御座いました。
不釣合いな文で申し訳ないです。
読んでいただいた方、有難う御座います。
宜しかったら感想等もお願いします。
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