「よう!!独りで呑んでるのか?お前寂しい奴だなぁ…」
この低い声、相手は予想通りだ。
「うるせー、独りで呑みたい時だってあんだよ」
「……あぁ、またナミに振られたのか?」
「あ゛ぁ?馬鹿にすんじゃねェ!!このプリンス様が振られてたまるかよ!」
「じゃあ何で」
「眠れねぇから呑んでんだよ!!悪いかよ!!!」
「(…どうもコイツと話してると疲れる)」
「…じゃあ俺にも呑ませてくれよ、目が覚めちまった」
無言の空間。
コイツと呑むときはいつもそうだ
それで良いんだ。特にコイツと話したいことなど無い…
いつもはそれで済む筈だった。
「お前さ――」
いつもは話しかけてなど来ないアイツが意外にも俺に声を掛けた。
「あ?」
「よっぽどあのレストランではチヤホヤとれてたみてぇだな」
「喧嘩売ってんのか?テメェ」
「いや、思った事を口に出したまでだ。その容姿だ相手にも不足しなかっただろう?」
言うとゾロは口の端を吊り上げてニッと笑う。
「相手って…」
「セックス」
「…お前なぁ」
「どうせあのオーナーとも寝たんだろ?テメェは誰でも良いのか?あ?」
ゾロは尚も冷静な顔つきでサンジを追い詰める。
「フザケンじゃねぇぞ!!?」
そんなゾロの暴言に煽られてサンジがゾロの襟髪を掴んだ。
「じゃあ寝なかったのかよ…」
「…寝たけど。その言い方はあんまりじゃねぇか!?」
「…お前はこの蝶と同じだな」
「蝶…?」
ゾロが示した方を見ればそこには羽を傷め飛べなくなってしまったのであろう蝶が静かに死んでいた。その羽の美しさを失う事無く――
「あぁそうだ、この世界で生き抜く為に備わった性格、態度…容姿。全く同じだな」
「お前さっきから何が言いてえんだ?」
「その容姿なら言わずと相手からお前に尽くしてくれただろう…だからそれは全て生まれながらにして備わった術だろうって言ってんだよ。でもな、蝶もお前も同じだ…いつしかは捕らわれ、自由を失い。そして死にゆく…」
サンジは何か反論をしなければとは思ったもの、言葉が見つからずに戸惑っていた。
否、もしかしたらゾロのその月明かりに照らされた艶かしい横顔を見ていたからかもしれない。
その顔はこんな酷な話をしている張本人と気付かないくらいで…とても――
――綺麗だった。
サンジには何故ゾロがこんな話をしたのかは分からない。
分かりたくない…分かってしまったら全てが終ってしまう気さえした。
しかし、脳はその気持ちを裏切り理解しようと励む。
「――つまりは…オレを捕らえるものになりたい…と?」
「オレがお前の鎖になれば良い。そうすればお前は何処も行けない。何処にも行かずオレの基で死んでくれるだろう…?」
「ふん…てめぇに捕らえられるなんて御免だね。―――死んだ方がましだ」
再び二人の間に沈黙の時が流れる。
「殺してやりてぇよ…オレの手で」
死んでいた蝶が微かに動いたような気がした。
その眩しいばかりのその青――
――――嗚呼、なんて
メニシミル――――
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